斜陽の「地方ラジオ」を買収したMBA学長の勝算 茨城発「日本の新しい地方創生モデル」を目指す

拡大
縮小

なぜ茨城には県域テレビ局もFMラジオもないのか。それは、関東平野が平坦で、首都圏の電波が届くからだ。テレビはもちろん、TOKYO FMもベイエフエム(千葉)もNack5(埼玉)も届く。だから茨城のテレビ局やFMラジオがなくても困らない。特に県南は茨城放送の難聴地域で、首都圏のテレビやラジオしか視聴できない茨城都民とも揶揄される。これが茨城がメディア後進県である背景だ。

しかし水戸を、そして茨城を活性化させるためにはどうしても地元メディアの力が必要だ。ひとつ不名誉な話をしよう。茨城は「県の魅力度ランキング」で、2013年から2019年まで7年連続ビリを記録している。1年(その時の最下位は群馬)挟んで、その前の3年間もビリだ。なぜこんな順位に甘んじているのか。それは地元メディアの弱さと無関係ではない。

地域のローカル放送の役割は、その地の情報を集めコンテンツにし、地域内だけでなく地域外にも発信することだ。それにより地域の中は活性化し、地域の外にも魅力が拡散され、集客や招致につながると言うわけだ。水戸ど真ん中再生プロジェクトを加速させるためにも、震災のような災害時のライフラインのためにも必要不可欠であり、これを脆弱なままにしておくことはできない。茨城の地元メディアの強化は絶対条件だ。

「茨城放送、買えるかも」

茨城に強いメディアを作りたい。そう考えた僕は2016年に総務省に問い合わせた。まずテレビについては「電波がないので無理」だということが判明した。余談になるが、まだ電波に余裕があった2003年の地デジ開始の時に、総務省はわざわざ茨城県に対してテレビ電波が必要かどうかを確認してくれている。しかし県が「いらない」と返事をしたので他に割り当てられ、それ以後、茨城ではテレビを放送する道が事実上閉ざされている。

一方で、FMラジオの電波はまだあった。ただし、サイマル放送とは言えすでにFM放送を流している茨城放送との調整が必要だ。僕は当時の茨城放送に面談を求め、地域の活性化のためにFMラジオを始めたいと相談した。だが返事は「すでにi-fm がある」というもので、事実上NOを突きつけられた形になった。

他のプロジェクトが忙しかったこともあり、ここで一旦僕のメディア構想は足踏みをすることになる。だが、水戸ど真ん中再生プロジェクトが軌道に乗り始めた2年後の2018年末にふと思いついた。「茨城放送の株主構成って、どうなっているんだろう?」

調べてみると、筆頭株主は朝日新聞社だった。茨城放送の社長は、初代こそ茨城新聞の社長が就任したが、その後8代はすべて朝日新聞社から来ている。TBSやニッポン放送と違い、朝日新聞はラジオ局とは距離を置くメディアだ。彼らは、茨城放送が将来テレビを始めることを見越して、いずれ系列に組み入れる布石として茨城放送の大株主となっていたようだ。しかし、茨城県でテレビ局を開設する道は閉ざされている。だとしたら、彼らは株を売ってくれるのではないか?

次ページ黒字だった茨城放送の問題点
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT