斜陽の「地方ラジオ」を買収したMBA学長の勝算 茨城発「日本の新しい地方創生モデル」を目指す

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大学同窓の友人である記者を経由して、朝日新聞社の経営層にダメモトで買収の話を持ちかけてみたところ、意外にも回答は前向きだった。そこから水面下で会合を持ち、信頼関係を築きながら条件交渉を進め、1年経てついに合意に至ったのだ。その成果が、記事の冒頭の記者会見というわけだ。狙ったわけではなかったが、契約締結した11月13日は、奇しくも「茨城県民の日」であった。

●茨城放送の問題点

ここで当時の茨城放送の状態を振り返っておこう。買収されるくらいだから経営状態が悪かったのではないかと思われた読者もいるかもしれないが、そうではない。9年連続黒字で無借金経営を実現した健全な経営状態であった。でも、だから順風満帆だったかというと、そうではない。

まずそもそも「ラジオ」というオールドメディア自体が、新聞などと同様に、どちらかというと斜陽産業と位置付けられている。業界的にバブル時代をピークに売上げを半減させ(茨城放送の場合には6割減)、インターネットメディアにも押されてスポンサーの獲得が年々難しくなっていた。

ラジオ局の中でも首都圏のTOKYOFMやベイエフエムなどは比較的元気だ。なぜなら首都圏に放送できる利を生かし、ナショナルクライアントを獲得できるからだ。茨城県しか聞けないラジオ(しかも県南は難聴区域)だと、そうしたスポンサーの獲得はまず難しい。

そんな苦しい状況下でも黒字を出し続けていた茨城放送は、やるべき経営努力をしていたと言える。だが一方でその弊害も現われていた。コストカットで自主制作の番組を減らし、キー局や制作会社から買ってきた番組を放送していたのだ。自主制作の深夜放送はなくなり、通販番組は増え続けた。これではたとえ黒字を達成しても、地元のメディアとしての役割は果たせず、社員のモチベーションも下がる一方だ。

この状況を変えて、元気なローカルメディアを茨城に作りたい。そして茨城を元気にしたい。その一心で、僕は茨城放送の買収に踏み切った。もちろん勝算はある。

僕はビジネススクールの学長として経営を教える立場の人間だ。人や組織を変革し、成長させる方法論は心得ている。本にもまとめた「創造と変革の5つの原則」がそれだ。

ここからは、その5つの原則に沿って話をしよう。

●創造と変革の5つの原則

原則1:可能性を信じ志を立てる。

ここまでの話を聞いて「ラジオに成長の可能性なんてあるのか」と思われた方もいるだろう。僕から見ても、正直厳しいと思う。 
だがそれは「ラジオ」の話だ。僕がやろうとしているのは、ラジオじゃない。

次ページ社名はFMだけどラジオ会社じゃない?
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