ワクチン接種の恩恵を行き渡らせる為の政策提言 政府分科会メンバーらが需要喚起策を提案

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付言1. 政府は直ちに「もし後々にワクチンの接種に報酬が用意されるとしても、すでにワクチンを接種した人もその報酬の対象になる」と宣言するべきである。

すでにアメリカをはじめとする接種先進国ではワクチン接種への積極的なインセンティブ付けが実施されていることもあり、わが国でも後々にはワクチン接種に対して報酬が用意されることを予想する人も多い。もしこれらの人々が「いまワクチンを接種してしまうと、報酬が用意された後に接種を受けることができなくなり、損をしてしまうかもしれない」と考えると、接種を様子見することにつながりかねない。このような様子見の姿勢は、現在、直ちに接種意欲に影響を及ぼしうる。

この問題を避けるために、政府は直ちに「もし後々にワクチンの接種に報酬が用意されるとしても、すでにワクチンを接種した人もその報酬の対象になる」ということを宣言するべきである。

この宣言の中に、「将来、必ずワクチン接種に対して何らかの報酬を提供する」という約束は必ずしも含む必要はない。必要なのは、「もし報酬が提供されるとすれば、今までに接種した人も対象となるため、直ちにワクチンを接種しても不利益にはならない」ことへの保証である。この約束がなされれば、後々に用意されるかもしれない報酬を目当てに接種を先延ばしにするインセンティブは生じない。

政策の意図とメリットの周知を

ただし、報酬の種類によっては、より多くの人に報酬を払うことになり財政負担を増やすことにつながるため、その点には注意と検討が必要である。他方で、前述した「『Go To キャンペーン』のポイントを受け取るためには、ワクチンを接種しなければならない」という施策のような、産業の振興が主目的であり、多くの補助金を配布すること自体が前提となる政策に便乗する場合は、財政負担増加の問題は生じないことにも注意されたい。

付言2. 政府は政策の意図とメリットを広く周知するべきである。

上記で強調したように、ワクチン接種の恩恵は本人のみならず周囲の人々にも及ぶという「正の外部性」が極めて重要であるにもかかわらず、現状でもワクチン接種の恩恵は本人の利益のみであるとした議論がしばしば見受けられる。

これは、当初はワクチンが発症予防効果をもつことしか確認されていなかったためと思われるが、現在ではワクチンは感染予防効果ももっているという報告が増えてきている。そのため、「ワクチンを接種することは周囲の人々のためにもなる」ことについて一層の周知を行うことが、需要喚起につながる可能性がある。

上記の政策を実施するにあたっては、例えば「旅行前のワクチン接種は、あなたやあなたの大切な人を新型コロナから守ります」というようなメッセージを広く発することにより、政策の意図とメリットを周知させるべきである。

大竹 文雄 大阪大学感染症総合教育研究拠点特任教授

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おおたけ ふみお / Fumio Otake

1961年京都府生まれ。1983年京都大学経済学部卒業、1985年大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年大阪大学経済学部助手、同社会経済研究所教授などを経て、2018年より大阪大学大学院経済学研究科教授。博士(経済学)。専門は労働経済学、行動経済学。2005年日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞、2006年エコノミスト賞(『日本の不平等』日本経済新聞社)、日本経済学会・石川賞、2008年日本学士院賞受賞。著書に『経済学的思考のセンス』『競争と公平感』『競争社会の歩き方』(いずれも中公新書)など。

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小林 慶一郎 慶応義塾大学経済学部教授

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こばやし けいいちろう / Keiichiro Kobayashi

東京大学大学院工学修士、シカゴ大学経済学博士。経済産業省、経済産業研究所、一橋大学経済研究所を経て、2013年から慶應義塾大学経済学部教授。経済産業研究所ファカルティーフェロー、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。

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