ワクチンの接種は一定確率で発熱等の不利益を引き起こす。一方で、ワクチン接種の利益は感染・発症・重症化を防ぐことであり、その利益の程度は流行状況に応じて変化する。特に、ワクチン接種が功を奏し、流行が収まってくると、ワクチン接種の恩恵は相対的に減少し、(ワクチンの性能について接種を受ける本人が医学的に正しく理解したうえでも)「社会全体として見ればワクチンを接種してほしいが、本人の利益だけを考えると接種しても得がない」という状況が今後出てくる可能性がある。これを放置すれば、ワクチンの接種率は社会的に望ましい水準にまで達しない。
政府はインセンティブ設計の検討を
接種を積極的に希望する人々に対してすらワクチン接種が終わっていない現状では、この問題が直ちに顕在化することはないが、接種が進んでくると、いずれ日本もこの問題に直面すると考えられる。来る政策課題に対し、十分に余裕をもって対応するため、そしてこの問題が現在の接種状況に悪影響を与えることを防ぐために、われわれは以下の点について政策提言を行う。
前述のとおり、ワクチン接種の恩恵は本人のみならず、周囲の人々にも及ぶ。この効果は、経済学の用語では「正の外部性」と呼ばれる。このような状況では、接種するか否かを個々人の自由意志に任せ、かつ政策介入を一切行わない場合、社会的に望ましい水準まで接種率が向上しないことが予想される。
正の外部性が存在する状況で社会的に望ましい水準を達成する標準的な方法は、正の外部性を持つ行動に対して補助金支給などのインセンティブを与えることである。ワクチンの接種を受けた人が社会全体にもたらす利益(の一部)を補助金として本人に還元することにより、被種者本人の便益と社会が受ける便益を一致させることができる。
実際、アメリカをはじめとするワクチン接種が進んでいる国では、接種のスピードが鈍化してきたタイミングから、新規接種に対して種々の報酬を提供し始めている。