人間の「皮膚」に隠れた壮大すぎる生存戦略の要諦 皮膚研究の第一人者が語る皮膚と意識の密な関係

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意識と皮膚がなぜ関係しているのか?(写真:metamorworks/PIXTA)
生物を外界と隔てる最大のインターフェイスである「皮膚」。
日本の皮膚研究の第一人者、傳田光洋さんは、人間は表皮と脳という2つの情報処理装置を持つことによって他の動物にはできない創造が可能になったと言う。
人間の「意識」は他の動物と何が違うのか? そして、なぜ意識と「皮膚」が関係しているのか? 「皮膚」が仕掛けた人類生存戦略の壮大な歴史と「意識」誕生の謎に迫った最新刊『サバイバルする皮膚 思考する臓器の7億年史』より一部抜粋、再構成し、全2回に分けてお届けします。

意識の誕生

ぼくが定義する生物は、環境と身体を隔てる境界、広い意味での皮膚を持つものだ。単細胞生物、たとえばゾウリムシの皮膚は細胞膜であり、樹木の皮膚は樹皮だ。遺伝子がむき出しのウイルスは生物だとはみなさない。世界の中で皮膚によって環境から切り離された空間で、時間が経ってもその空間の中の動きと皮膚を保ち続けるのが生物だ。

熱力学的には、単なる境界で隔てられた空間の中では、秩序は崩れることはあっても、維持され続けること、新たな秩序が現れることはない。言い換えれば境界の中のエントロピーは増大する。しかし生物の場合、生きている限り、境界の中の秩序は保たれ、単細胞生物の場合は分裂したり、多細胞生物の場合は新しい世代を生み出して、時を超えて存在し続ける。

さらに新しい世代を生み出す過程で、さまざまな異なる形、生き方を持つ生物が現れた。進化だ。その進化の過程で、意識が生まれた。

人間の場合、意識は意識したときにしか現れない認識である。あるいは意識というものがあると信じている。大脳生理学者は、意識は脳と、身体のさまざまな感覚器からもたらされる情報との相互作用で生まれると考えている。そこでは過去の記憶、意識的な記憶もあれば、無意識の領域に隠れていた記憶もあるが、その記憶も意識の構築に寄与している。

人間の意識はフィクションなのだ。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの体性感覚、そして過去の記憶をもとに、過去の自分と今の自分、そして未来の自分が同一の存在である、とするフィクションだ。

物質として身体を考えれば、過去の自分と今の自分、未来の自分は別の存在である。言うまでもないが、環境から栄養源を取り込み排出して存在する生物は常に、その構成物質が入れ替わっている。さらに人間の意識、言い換えれば、世界に対する自分の見方や考え方は、さまざまな経験から変化し続けるものだ。だから自分は自分であるという意識は、生きている瞬間ごとに作られるフィクションである。

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