人間の「皮膚」に隠れた壮大すぎる生存戦略の要諦 皮膚研究の第一人者が語る皮膚と意識の密な関係

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意識について、さらに考えてみる。意識については哲学者や心理学者、精神医学者、脳科学者、物理学者までがさまざまな意見を述べている。それらの整理は、ここでの目的ではない。あくまで、ぼくの考えを基準にする。

もう一つ、前提を設けたい。こころとか魂とか神の意思というような、現代の物理学の範疇に収まらないもの、物質と、それが起こす現象に結びつけられないものは、考えから排除する。たちまち反論が出るかもしれないが、これは、ぼくの試み、あるいは思考実験だ。非物質的なこころや魂の存在を否定するのではない。そうではなくて、そういうものを除外して、どこまで意識というもの、あるいは現象を説明できるか、その挑戦だ。

意識は、注釈がない場合、個人の、あるいは語り手の現象だ。国の意識、会社の意識、という表現もありうる。しかし、それらは、その構成員の全体、あるいは一部の、個人の意識の反映である。あなたの意識、彼女の彼らの意識、も、もちろんある。しかし意識が個人的なものであるとすれば、ぼくが語りうる意識はぼくの意識だ。

ぼくは今、朝の9時、椅子に座って目の前のパソコンのキーボードを、ゆっくりゆっくり叩いている。と、いう文章を書くにあたって、ぼくは、パソコンの右下に表示される時刻を眺め、立っているのでもなく寝転んでいるのでもなく座っていて、目の前にあるのはテレビでもなく本でもなくパソコンで、叩いている、というより、ゆっくり指で押しているのはキーボードという文章を書くための入力装置である、それらを瞬時に確認したのち、その状態を示す言葉の並び方を考えながら、キーボードを不器用に押している。

意識は意識しようとしたときにだけ現れる

この上のパラグラフは「ぼくは今何をしているのか意識してみよう」と意識した結果だ。普通、パソコンで文章をつづるとき、常に「今、指で押しているのはパソコンという機具のキーボードという装置である」などと考えはしない、意識はしない。

つまり、ぼくが今何をしているかという意識は、ぼくは今何をしているのか意識しようとしたときにだけ現れる。意識は意識しようとしたときにだけ現れる。

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