海外赴任の妻を支える「駐夫」が悩みを抱える事情 日本の仕事を辞めてフランスへ渡った男性たち

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しかし、今は心と時間にもとても余裕があるという。仕事を受けても在宅で行うため、夫婦で細かく分担を決めなくても、スムーズに家事が運ぶようになった。

ここ半年は昨年のゴンクール新人賞の小説『ベケット、最期の特別な時間』の翻訳を担当し今年7月に出版されるという。またコロナ禍で遠隔授業の導入が進み、現在は日本の大学にリモート授業で俳句と戯曲創作を教えている。

今年が3年任期の最終年。帰国後のことを考えねばと思っていた矢先に、今度は趣味だった「俳句」の分野で、大学から講師として声がかかった。ただ、それだけでは足らない部分の方策を、帰国に向けて今考えている途中だそうだ。

親会社が倒産したが現地に残ることを決意

パリ市内の美容院で店舗責任者を務める米山重雄さん(48)の経歴は少し異色だ。妻はフランスの国家資格を持つエステティシャン。日本の企業がフランスでエステサロンを立ち上げるため、妻が駐在で派遣されることになった。

ところがその後、日本の親会社が倒産。妻は日本に戻る選択肢もあったが、それは選ばずパリの別のサロンで働き続けることを選んだ。

妻の赴任が決まった当時、米山さんは東京の大手美容専門学校で室長を務めていた。加えて、職場から1つ上のポジションへの就任も打診されていた。「葛藤はありました。今まで積み重ねた収入やキャリアは、ひとまずすべて投げ捨てないといけませんでしたから」と当時の様子を話す。

日本での米山さんは仕事へ打ち込むことが多く、家庭への時間を十分に持てなかった。しかし、渡仏後はその生活が正反対になった。働く妻の代わりに、家事と育児に専念することになったからだ。ところが悩みも生まれた。

「仕事をしていなかったときは、精神的な負担が大きかったです。仕事をしていれば、そこに自分の価値を見出せますが、ずっと家にいるとそれを見出しづらい。自分を“なさけない”と思ってしまう。それが要因で妻とぶつかることもありました」(米山さん)

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