海外赴任の妻を支える「駐夫」が悩みを抱える事情 日本の仕事を辞めてフランスへ渡った男性たち

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娘の保育園が見つかった後は、米山さん自身もパリで仕事を始めることにした。市内のヘアサロンで美容師の職を得て、その後に別のサロンへ転職。店舗責任者として雇われた。現在は家事や育児は妻と分担する。

今後のことを質問すると「飽きたら日本へ帰ろうかと妻とも言っています」と笑って答えてくれた。お互い興味がある場所があれば、夫婦でそこへ移住することもありという。

卑下するのではなく状況を享受する

これら話を聞くと、新しい環境に飛び込み、その場所を楽しめる人がいる一方で、がらりと変わった自身の変化に対応できずに、悩んでしまう人も多い。

例えば1人目に紹介した戸谷さんは、ふさぎ込んでいた時期に、同じ境遇の男性帯同者へ自身の気持ちを打ち明けた。そのときに相手がかけてくれた言葉が、今でも心の支えになっている。

「われわれと同じような立場の人は、日本ではまだそこまで多くない。これは逆に恵まれているということだ。だからこそ、この立場で自分の好きなことを存分にすることが、家族の幸せにもつながる。仕事をしていないことを卑下するのではなく、それを享受しないといけない」

また戸谷さんは、パリで通った語学学校で同じような立場の外国人男性と知り合う機会も多かったそうだ。それまで「自分は少数派だ」と思っていたのが、「海外では案外普通かもしれない」と思い直し、気分はずいぶん楽になったという。

最後に紹介した米山さんは、日本の美容学校でそれなりの地位にあったが、以前の肩書は捨てて、一美容師としてパリで仕事を探した。

「以前はプライドが邪魔をしていた。妻に依存しているということを認めたくない自分にも苦しんだ。今まで積み重ねたものや、そのプライドをひとまず隅に置いて動けば、新しい道は開けると思う」(米山さん)

不安はあるが手放したことで、新しい世界が、またその空いたスペースに広がる。帯同することでの心の動き、キャリア、家庭での役割。男性の話としてこれらを紹介したが、日本でのキャリアを中断して夫の帯同を決めた女性にも、共通する点は多くあるはずだ。

守隨 亨延 ジャーナリスト

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しゅずい ゆきのぶ / Yukinobu Shuzui

愛知県出身、パリ在住。ロンドン大学クイーン・メアリー公共政策学修士修了。東京で雑誌記者、渡仏後はANNパリ支局勤務などを経て、現在は『地球の歩き方』フランス・パリ特派員。フランス外務省外国人記者証所持。主な取材分野は日仏比較文化と社会、観光。故郷の愛知県東海市では『聚楽園大仏を次の世代に伝える会』代表として関連文化財の保護活動に従事する。

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