習い事といっても、単に趣味の延長やたしなむ程度ではなく、きっちり評価や資格が付きまとうのがシンガポールの傾向かもしれない。シンガポールの親たちと習い事について話していると、Grade(級)やCertificate(資格/証明)という言葉がたびたび出てくる。
「ピアノは今グレード3で、8まで行くとディプロマの先生にもなれるので、たまに文句を言っているけどプッシュしてやらせている」「水泳は一種のサバイバルスキルだし、資格を取ればライフセーバーにもなれる」など。
プロのピアニストやスポーツ選手を目指しているわけではなくとも、ある程度のレベルまで達することで、仕事につながるという見通しが語られるのを興味深く聞いていたが、その後、グレードや資格は仕事のためだけではないことがわかった。
政府や学校側のオフィシャルな見解ではないが、少なくとも親の認識上では、音楽やスポーツで上位のグレードを取ったり、大きな大会で優秀な成績を収めると、中学の入試出願時に有利になるというのだ。
「基本は試験のスコアで決まるけど、あと1点の差で入れたのに、というときにスポーツなどをやっておくとそれが点数になるという話を聞いた」「履歴書に書ければ、同じ点数の子が複数いたときに選ばれるかもしれないから」という話を複数の親から聞いた。
結局、ペーパーテストの点数がすべてではなくても、選抜自体はなくならず、別の好成績を獲得しようとする競争が生まれてしまっているのだ。
シンガポール政府は2005年から、中等教育の入学段階でスポーツや芸術、リーダーシップなどに秀でた学生を選抜する推薦入試のような仕組みDSA=Direct School Admissionを導入している。この制度も、本来は“旧来型学力”の点数至上主義からの脱却を図ったものだろうが、この仕組みを使っても“旧来型学力“が不要というわけではないうえに、結果的にスポーツや芸術領域までをも競争的にさせている側面がある。
あるインタビューした母親の友人は、子どもが4歳のときから卓球の専属コーチをつけて週4回卓球の練習をさせているという。アメリカ等でも見られる現象だが、結局入試が多様化すると“旧来型学力”のみのときよりもさらに、お金をかけられる層に有利になってしまうとの指摘もある。
ポイント稼ぎ……?
このような状況について、ソーシャルワーカーの60代男性、Eliot(仮名)さんは「私たちが子どもの頃は、夕方近所の子供たちや親せき同士で色々な学年の子供たちが遊んでいて、サッカーもさかんだった」と寂しそうな顔を見せる。
シンガポール政府は、1999年に、それまでECA(Extra Curricuar Activities)と呼ばれていた放課後のスポーツや音楽などの活動について、「追加的なものや選択的なものではなく全人的発達に不可欠なもの」としてCCA(Co-Curricular Activities)と名称変更。スポーツや芸術などに取り組む機会も増やしている。
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