歴史上の営みに学び、自分の生き方を考える--『幕末維新に学ぶ現在』を書いた山内昌之氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)に聞く
--敗者側にもスポットライトを当てています。
この本は、旧幕府勢力、会津や桑名にも目を注いでいるところに特徴がある。たとえば会津の林権助(はやしごんすけ)。祖父の権助は鳥羽伏見の戦いで死ぬが、その志を継ぐように同名の孫が外交官として駐英大使になる。大変な苦労をするが、旧当主、松平恒雄の娘、勢津子姫が秩父宮に輿入れ。恒雄自身もまた駐英大使になり、敗者の復活を見事にやってのける。その根性はすごい。
節操を持つという意味では林忠崇(はやしただたか)。木更津の大名でありながら最後は脱藩大名となり、幕府軍に参加する。旧大名で唯一爵位なし、華族になれない。維新になっても帰属せず、大阪府の役所書記や函館の物産商の番頭など転々としながら、屈することがない。「琴となり下駄となるも桐の運」との辞世の句を早々に詠み、自分の人生を相対化できる人間だった。
--学問の基礎づくりでは理系の人物も登場していますね。
長州の山尾庸三(やまおようぞう)を挙げておきたい。井上馨や伊藤博文と一緒にイギリスに渡ったが、いわゆる4カ国艦隊が長州を攻撃するというので、この両名は戻る。だが、山尾は残り、勉強を続ける。彼は日本の未来を見ていた。東京大学工学部、日本の工学研究の基礎をつくった。重野が文系の基礎づくりをしたとすれば、山尾は工学系の基礎を手掛けた。
--地味だが、大事な仕事をした人たち……。
冠たるものは佐賀の佐野常民(さのつねたみ)、幕臣養子の前島密(まえじまひそか)だ。日本赤十字社、郵便制度を創設した。
廻船問屋の白石正一郎(しらいししょういちろう)も挙げておきたい。パトロンとして活躍したが、成功した明治の重臣たちに裏切られる。政治家は冷酷、冷淡だ。白石はその活動で財産をなくす。民主党も京セラ創業者の稲盛和夫氏の恩を忘れてはいけない。