歴史上の営みに学び、自分の生き方を考える--『幕末維新に学ぶ現在』を書いた山内昌之氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)に聞く
--収録53人のうち、絞り込んで「生き方が学べるベストテン」は、と問われたら。
著名な人物は除外して、政治家で関心が高いのはまず薩摩の小松帯刀(こまつたてわき)。実際に薩摩藩の舵取りをし、島津久光と西郷隆盛の関係を調整、また大久保利通を引き立てる。本人はピカピカの上士であり、家老の家柄だったが、下士とも通じていた。薩摩藩が政治の成功者になるうえで貢献度は大きい。だが、彼の病死で薩摩内の力のバランスが崩れて、西南戦争等への悲劇に結び付く。
--小松帯刀に該当する現代の政治家は。
もう少し若ければ、与謝野馨氏か。もともと都会人として毛並みのよさもある。政策にも無類に強い。今なら与党の小沢一郎氏との関係も悪くなく、満遍なく信頼される。小松的な存在を同時代で求めると、彼となるが……。
--この本の小松帯刀の項では過去の政治家に若干の記述があるのみで、与謝野氏については重野安繹(しげのやすつぐ)の項で触れています。
この重野安繹は同じ薩摩の一般人ながらベストテンに入る人間。外交で大きな仕事をして、どれだけすばらしい外交官になっていくのかと思ったら、きちんとした文系学問の基礎をつくりたいと地味な道に転進する。そして帝国大学文科大学校、のちの東大の歴史学の基礎をつくる。史料編纂所づくりでも功労者だった。
外交から政治に進んでも成功しただろう。明治期は多面性を持ち何事にも成功しそうな人たちを輩出したが、その一人だ。地味な形での学問的基礎をつくった重野は、今はほとんど知られていないが、現代も重野のような地味な役割は欠かせない。当時、「末は博士か大臣か」と言われ、むしろ大臣が下にきた。博士はそういう幸せに輝いていた時代だった。これからの時代も新しいものを切り拓いていくうえで、地味な役割が尊重されてしかるべきだ。