「イスラエルvs.パレスチナ」こうも泥沼化した訳 ガザで繰り返される衝突に「真の出口」はあるか

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ロケット弾の射程距離が伸びているのは、ハマスがイスラエルの宿敵イランから軍事支援を受けていることも大きい。ハマスは、イラン製のロケット弾「ファジル」を入手してきた。

イランからの軍事支援は、ハマス指導者のハニヤ氏も認めており、イスラム教スンニ派のハマスとシーア派のイランというイデオロギーを超え、イスラエルを宿敵とする一点で双方の利害が一致している。イスラエルは、ガザ地区がイランの橋頭堡になってはたまらないとして、ハマスを徹底的に叩いている。

突発的な軍事衝突拡大の理由は

衝突の激化を事前に予想する人はほとんどいなかった。現地でビジネスを展開する実業関係者は、「ここ数カ月は情勢が落ち着き、イスラエルがワクチン接種で新型コロナウイルスを抑え込みつつあることもあり、現地とビジネス再開に向けた話し合いを始めたところだった」と驚く。イスラエルのメディアでも、ガザ地区の情勢は平穏だったとのイスラエル軍高官の話が伝えられた。

衝突の発端となったのは、エルサレムのパレスチナ人地区シェイフ・ジャッラのパレスチナ人家族の立ち退きという、今に始まったわけではない比較的目立たない問題だった。それがエルサレム聖地での衝突につながり、ガザ地区のハマスがロケット弾をイスラエル領内に発射したことで戦火が拡大した。重要日程と重なったことも大きい。

5月10日は、イスラエルがエルサレムの統一を祝う「エルサレムの日」であり、パレスチナ人にとっては、エルサレムが占領された日に当たる。13日にはイスラム教のラマダン(断食月)明けの祝日が始まり、15日は、イスラエルの1948年建国で70万人以上のパレスチナ人が家を追われて難民となった「ナクバ(大惨事)」の日。このように、イスラエルとパレスチナ双方の人々の感情が高揚する時期を挟み、衝突が拡大した。

政治的な思惑も指摘されている。イスラエルでは3月に総選挙が行われ、ネタニヤフ首相率いる右派リクードが第1党になったものの、組閣に失敗。リブリン大統領は5月5日、中道政党の指導者ラピド元財務相に組閣を指示した。

ネタニヤフ首相は、汚職疑惑で起訴されており、政治的な窮地に立たされている。ユダヤ人の虐殺や、建国以来4回に及ぶ中東戦争など辛酸を舐めてきたユダヤ人国家のイスラエルでは、安全保障問題への関心がとりわけ高い。ハマスに対する強硬姿勢には、安全保障に強い「ミスター・セキュリティー」の異名を取るネタニヤフ氏が、政治的な得点稼ぎに走った側面もあるだろう。

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