台湾に中国が侵攻する最悪事態の想定が必要な訳 台湾海峡の平和と安定は日本防衛と同義だ

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仮にCFR報告書の戦略で中国の台湾統一を抑止できなかった場合、日米は経済的な大打撃に加え、第一列島線の中央部に穴が開き戦略態勢の大きな後退を余儀なくされる。自由で開かれたインド太平洋という秩序は失われ、尖閣諸島は言うに及ばず、南西諸島全域が中国の深刻な軍事脅威に曝される最悪の事態となろう。その先は中国の目指す2049年の太平洋分割である。

アメリカがそのような将来を受け入れるとは考えられないが、昨年8月、National Interest誌に「アメリカは中国の台湾侵攻を成功裏に撃退できるか?」という論考が発表された。著者のDaniel L. Davisアメリカ陸軍退役中佐は、アメリカ国防総省とRAND研究所が実施したWar Gameに基づき、中国は数日から数週間で台湾を占領できる、仮に中国を撃退できてもアメリカは巨額の代償を支払うことになり、中国の報復戦に備えた台湾防衛態勢を維持し続けなければならない、と分析している。

Daniel L. Davisアメリカ陸軍退役中佐の結論は、「アメリカの利益が直接脅かされていないのに、軍事的敗北や経済的破滅というリスクを冒すのは、アメリカの政策として理に適わない」「アメリカが台湾を支援し中国の武力行使を思いとどまらせる最善の方法は、台湾だけでなくアジア太平洋地域のすべての友好国が自身の防衛能力を強化すること」である。

アメリカの死活的に重要な国益が脅かされる

だが、仮に中国が台湾を軍事占領するならば、中国の覇権は西太平洋へと広がり、アメリカの民主主義のリーダーとしての地位は失われる。したがって、この論文の結論の後半は正しいが、前半は誤りだ。アメリカの死活的に重要な国益が脅かされるのであり、同盟国とともに抑止力を強化することがアメリカの正しい選択だ。

この論文のような考え方はいまだアメリカの主流ではないが、海外への過度な軍事的関与は見直すべきとの声が強まっている。バイデン政権は山積する国内問題と同時にこの孤立主義とも戦うため、多国間協調と同盟協力を進めざるをえない状況なのだ。したがって日本は、共同声明を実行するため、少なくとも2つの課題に直ちに取り組む必要がある。

1つは、中国の誤算や過信による軍事侵攻を抑止するため、台湾有事の具体的な作戦計画を日米で共有することだ。新旧のアメリカインド太平洋軍司令官は中国の台湾侵攻が切迫(6年以内)していると議会証言したが、それは、習近平体制3期目(2022~27年)に来るPLAの建軍100周年(2027年)や2024年のアメリカ大統領選・台湾総統選など、軍事侵攻を招きやすい誘因を予期した警鐘である。

次ページ中国は本格的な台湾侵攻用の戦力増強を誇示
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