中国はA2AD戦略に基づき、第一列島線の東側領域へのアメリカ軍の接近を阻止しつつ(Anti-Access)、西側領域でのアメリカ軍の行動を拒否し(Area Denial)、台湾の軍事施設等へのミサイル攻撃・空爆を行うだろう。台湾を孤立させるため、台湾周辺に飛行禁止空域を設定し、台湾海峡およびバシー海峡を封鎖する可能性が高い。
航空自衛隊の空中警戒管制機は上空で半径約400km内の数百の航跡を管制する能力があり、現代航空戦の作戦空域はさらに広い。中国は、台湾東部の花蓮県に所在する空軍基地の地下施設に対し、弾道ミサイル攻撃と航空機による太平洋側からの攻撃を実施するだろう。
必然的に、台湾の東側100~300kmに位置する与那国から石垣島周辺のわが国領空は中国軍の作戦空域となり、日本の南西諸島周辺の航空・海上交通は途絶する。台湾本土へのミサイル攻撃・航空爆撃は、台湾市民はもとより在留邦人や在留アメリカ人の犠牲を出すだろう。日本は、日米同盟に基づいて各種の防衛作戦を実施せざるをえない状況になる。
アメリカが資産凍結に出れば中国の報復は日本にも及ぶ
このような事態にアメリカはどう対応するのだろうか。アメリカの外交問題評議会(CFR)が2月に公表した「アメリカ、中国、台湾:戦争抑止の戦略」と題する特別報告によると、アメリカはまず、アメリカ国内のすべての中国保有資産を凍結する、また、台湾人の資産を中国人の資産と区別し保護するため、台湾の独立政府を承認する可能性がある。
さらに、アメリカは敵となった中国とのビジネスやドル取引を遮断する一方、中国の同様の報復によってアメリカや世界中の何兆ドルもの資産が影響を受ける、と見積もっている。その場合は同盟国の日本にも、中国による日本資産の凍結、邦人の拘束、貿易・金融取引の遮断等があろう。
報告書は、米中の全面戦争への拡大を防止するためアメリカ軍による中国本土への攻撃は行わず、このような地経学的な手段と軍事的対応を組み合わせた作戦計画を、少なくとも台湾および日本と事前に準備し、中国の侵略を抑止すべきだと主張している。
だが、中国はこのような限定的な戦略によって、最優先の核心的利益である台湾統一を躊躇するだろうか。RAND研究所で「米中軍事スコアカード」報告書に携わった研究者は、その程度の影響は中国も織り込み済みだろうと筆者に明言した。
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