当時は、コンゴ民主共和国で保険医療系のプロジェクトに取り組みたかった。どう考えても、そのプロジェクトのニーズは高い。調査で何度か現地入りもしました。
ところが、当たり前のことですが、資金が集まらないと、プロジェクトはできないわけです。
そのときにすごく思ったんですよ。誰も知らない状態で、資金が集まるわけがないだろう、と。政策を変えるためにも「現実を知る」ことがすごく大事だろう、と。それが、アフリカで現場を見て湧き上がった実感ですね。
僕自身がNGOに関わって現場に戻ることはないでしょう。その代わりに人の意識を変えたい。そのための仕事、研究を続けたいと考えています。
――研究の世界に入り、どんなテーマを手掛けてきたのでしょうか。
武力紛争とアフリカと報道。研究テーマはこの3つです。NGOでの経験をきっかけにして、「アフリカの紛争はなぜ報道されないのか」という疑問がありました。
私からすれば、明らかに報道は偏っている。日本で交通事故が起きれば、けが人1人だと報道されなくても、けが人が10人だと報道されるよね? しかし、アフリカで起こった紛争はそうじゃない。(犠牲者が何人になっても)報道されない。
コンゴの紛争は犠牲者が540万人いるのに報道されず
いちばん印象に残っているのは、コンゴ民主共和国の紛争(内戦)です。540万人という犠牲者数は、死者でいえば、朝鮮戦争以来、世界最多でしょう。ベトナム戦争よりも多い。はっきり言えば、その死者数も確かではありません。
そもそも、あの紛争は2008年までしか犠牲者を数えていない。その後も紛争はずっと続いているから、実際は朝鮮戦争より多く、ひょっとしたら第2次世界大戦以来の死者数を出しているかもしれません。
そうした紛争に対し、報道はどうだったか。周りの8カ国ぐらいを巻き込んだ「紛争」でありながら、日本のメディアは「コンゴ内戦」という言い方を続けました。「アフリカの第1次世界大戦」と呼ばれるほどだったのに、ほとんど報道すらされなかった。
日本だけではありません。研究を続けるうちにアフリカに関する報道だけでなく、世界全体について、そして、紛争だけでなく、あらゆる事象についても、同じ傾向があることがわかってきました。
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