"プロ登山家"に学ぶ、「恐怖心との対峙法」 働く上でも参考になる、竹内洋岳さんの哲学(上)

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登山を好む経営者は多いものです。目標達成への道のりを登山にたとえたり、チームワークを高める方法を登山から学んだり。登山において大切なことは、どこか働く上でも参考になることが多いです。私も趣味でよく登山をするのですが、一歩一歩自分の足で頂上にたどり着いたときにかけがえのない達成感を味わえる瞬間が大好きです。
今回、お話を伺ったのは、プロ登山家の竹内洋岳さん。日本人で初めて8000メートル峰14座の登頂に成功した竹内さんは、なぜ「死」の可能性を意識しながらも、果敢に頂上を目指せるのでしょうか。プロ登山家の考える「想像力の大切さ」とは?

「プロ登山家」を宣言した理由は?

太田 私は『登山の哲学』(NHK出版新書)をはじめ竹内さんのご著書は何回も読んでいます。まず、竹内さんが「プロ登山家」と、あえて「プロ」と宣言した理由を教えてください。2006年に記者会見を開き、8000メートル峰14座の登頂と、「プロ登山家」として活動することを宣言されていますね。

竹内 ドイツ人のラルフ、オーストリア人のガリンダと長くチームを組んで登山を行ってきましたが、1つの登山が終わると必ず「次はどこへ登ろうか」という話をするんですね。あるとき、雑談の最中に「私たちは次に登る山を見つけるために山に登っているみたいだね」という話になりました。一つの山に登った後、それで終わりと思ったことは一度もない。必ず次を見ているんです。そこで、私たちはすでに何度も一緒に登頂をしているから、それならば今度は次だけではなく、もう少し先の目標を持とうと。14座に登頂したら、それぞれドイツ人初、女性で初、日本人で初となる。最後まで1人も死なずに登頂しようと思ったんですね。

ただし、登ろうと決めただけではダメだと思いました。14座を登ろうと決めた瞬間に、それが重いものであることに気づきました。多くの先輩が14座を登ろうとして亡くなっています。彼らが命を懸けた証であり、彼らを応援していた人がいた。そういう人たちがいた14座に対して、「登ろうと思ったけれど、途中で飽きたからやめました」とか、結果的に「登ろうと思ったけど登れませんでした。でも楽しかったから良かった」とかで終わらせてはいけない。途中で辞めないための宣言として「14プロジェクト」の発足と、「プロ登山家」としてやっていくことを表明することにしました。

太田 「プロ」と名乗るようになってから変化はありましたか?

竹内 ありましたね。「プロってどういうこと?」と必ず聞かれるので説明しなければならない。世の中ではプロって何なのかってさんざん論じられていると思いますが、私は「プロとは?」と聞かれたとき、「覚悟」と答えています。プロ登山家と名乗り、生きていく。死なないで14座を登りきる覚悟があるという意味でそう名乗りました。

登山家というのは資格が必要なものではないから、誰でも名乗れます。人から聞かれたときに「登山という世界で生きていく覚悟があります」と答えるということは、そのたびに覚悟を表明することです。

太田 ビジネスの世界でも、プロと他人から認められるというよりも、自分の覚悟なのかなと思うことがあります。ところで竹内さんは、ご著書などで登山は「想像の世界」と仰っています。これはどういうことでしょうか?

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