"プロ登山家"に学ぶ、「恐怖心との対峙法」

働く上でも参考になる、竹内洋岳さんの哲学(上)

「自分が死んでしまう想像」もする

たけうち・ひろたか●1971年生まれ。プロ登山家。立正大学客員教授。ICI石井スポーツ所属。幼い頃から登山を始め、立正大学山岳部で国内登山を重ねる。1996年にエベレスト登頂。大学卒業後は会社員として働きながら登山活動を続ける。2006年、記者会見で8000メートル峰14座に登る「14プロジェクト」発足と「プロ登山家」として活動することを発表。2012年に日本人初となる8000メートル峰14座の完全登頂を達成。2012年に植村直己冒険賞、2013年に文部科学大臣顕彰、スポーツ功労者顕彰を受賞。公式ブログはこちら

竹内 登山に限らず言えることだとは思いますが、登山は登る前から始まっています。登る前から登山の想像合戦をしている。より多く想像できた人が成功に近づきます。登頂したことのある人に写真をもらったりして、自分ならどんな風に登るかを考えるのです。誰と登る? どんな道具を使う? どんな季節に登る? 想像することが初めの一歩で、山へ入った後も常に想像します。次の一歩を踏み出したら落ちるかもしれない。パートナーの具合が悪くなるかもしれない。雪崩が起きるかもしれない。自分が死んでしまう想像もする。

太田 ネガティブな想像をあえてするのですか?

竹内 私たちにとって、死ぬ想像というのはネガティブな想像ではないのです。なぜなら、死ぬ想像ができれば、死なない想像もできるからです。むしろ、死ぬ想像もできるかどうかを試してみる。右から落ちる想像、左から落ちる想像、落っこちたときのリカバリー。落っこちた想像をしていれば、落ちたときにそこからのリカバリーすることができる。「もっとこう登りたい」と思う気持ちがあるから、研ぎ澄まされます。

太田 素人からすると、死ぬことを想像するのは勇気がいることに思えます。竹内さんは自然に身に着いたのでしょうか?

竹内 それは環境だと思いますよ。たとえばここ(丸の内のオフィスビル)にいて、死ぬ想像はなかなかできない(笑)。

計画を立てることは、想像すること

太田 恐怖心を覚えることはないのですか?

竹内 怖いですよ。たとえば、ファイナルキャンプから頂上に挑むときは怖い。でも、恐怖心を克服しようとしたり打ち消したりするのではなく、利用するんです。人間が恐怖を覚えるのは死なないために必要なことなので、その恐怖心を利用して危険を見抜くのです。恐怖を分析して冷静に向き合うことで、より繊細な判断をして頂上に向かっていく。

太田 ビジネスは生きるか死ぬかの世界ではありませんが、それでもやはり大きなプロジェクトに挑むときには怖さを感じます。怖さを覚えたときにそれでも前へ進むために、どうやって自分を奮い立たせるのでしょう? 

竹内 私の場合は、気合を入れなおしたり、モチベーションを上げるために何かするということはありません。ただ、スケジュールを決める。出発する時間を決めて、逆算してその時間に向けて淡々と準備をする。そこで感情に左右されることはありません。

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