もう1つの懸念はアメリカの内政です。トランプ時代に激化したアメリカの経済社会の大分断がアメリカの世界観と対外構想、そして対外関与のありように影響を及ぼすおそれがあります。バイデン大統領はアフガニスタンからの撤退を確約しています。この“永久戦争”がアメリカ国民の“対外関与疲れ”の背景にあることは間違いありません。
しかし、アフガニスタンから撤退し、中東への過剰関与を整理して、インド太平洋に関心も資源も集約するという“ピボット”がそう簡単に起こるとは考えにくい。「中間階層のための外交政策」はアメリカのそれこそ“自力更生”路線、つまりは保護主義的産業政策に裏打ちされた貿易・経済安全保障政策にほかならず、アメリカが近い将来、CPTPPに復帰することは考えにくい。
インド太平洋の多角的枠組みへの再参画と人権をはじめとする価値観外交を標榜する姿勢はアメリカのリーダーシップ復権のためには望ましい方向を指し示しているとは思いますが、人権や地球環境などでのいささか前のめりの姿勢には多分に内政面での支持母体層へのアピールという側面も感じられます。対中競争的共存の長期的戦略の中で、これらをどう位置づけるのか、そしてそれをアメリカの国民の支持を得る形で練り上げられるのか、そこになるとバイデン政権もまだ十分に構想を描き切れていないのではないかという気がします。
台湾と尖閣
さらには台湾問題も日米関係の不安定要因になりうる鬼門です。台湾海峡有事は尖閣諸島有事と連動、共振してしまう時代に入りつつあるように見えます。
台湾を失えば、それはドミノ倒しの最初の駒となるという切迫感をアメリカは持ちつつあります。それは日本も共有している切迫感です。そうなった場合、アメリカはもはや(西)太平洋パワーとしてとどまることは難しい。日米同盟をいまのような形で維持することも難しくなる。日本のシーレーン防衛は根本から挑戦を受ける。
台湾有事に関して、日米同盟は兵力分散配置、基地再編、コンティンジェンシー・プラニング作成などを行う必要が出てくるでしょう。台湾海峡に有事を起こさせないために、日米は協調して対中抑止力を高める必要がある。同時に、台湾防衛に関しては、日本のできることとできないことをアメリカに明確にしておくべきです。基本は、尖閣諸島の防衛・抑止は日本が主、台湾のそれはアメリカが主、という役割分担を共通理解にしておくべきでしょう。
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