日本が国際的な敗者にならない為に必要なこと 対米、対中を軸にした経済安全保障戦略の要諦

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こうした中、日本は対米政策と対中政策の両輪を並行的に転がすことは徐々に難しくなりました。すでに論じたとおり、バイデン政権はトランプ政権の対中競争路線を引き継ぎ、人権問題を加えて強化する路線をとり、気候変動などの領域を除き米中が共存する道筋を描くことが難しくなりました。

日本の黄金期の戦略空間が狭まっていく中で、オートパイロット(自動運転)の外交をする余地はありません。特により戦略性を高めて先端・新興技術を保護しサプライチェーンに厳しい視線を向けるアメリカと、中国経済の成長を果実にしたい日本との利害調整をする局面は今後も増えます。

経済安全保障戦略の策定を

これからの日本は、一方で自由、公正、無差別、開かれた市場といった自由貿易の原則を推進しながら、もう一方で戦略性の高い経済安全保障を推進する両輪が求められます。政府与党でも新国際秩序創造戦略本部で経済安全保障戦略をめぐる議論が交わされていますが、今後は産官学を含めて議論をさらに深めるべきだと思います。

経済安全保障は貿易管理や対内投資管理などを通じて「守る」政策と、産業政策や国際連携を通じて「攻める」政策を総合的に推進する必要があります。前者のみ進めてしまうと、安全が強化されたように見えても、実態としては国内産業保護や輸入代替の隠れ蓑になってしまう危険性もあります。結果として重要な産業分野で競争力を失っては、何のための経済安全保障かということになりかねません。

まず「守り」ですが、日本自身の重要産業分野のリスク管理を強化する方策が求められます。例えば、米中双方で利益を上げている企業は、米中でビジネスを展開する事業母体を切り離して分社化するような手法での危機管理が必要となる局面が増えてくると思います。産業基盤を強靭化し、特定国への過度な依存からの脱却を図るという発想も重要です。

同時に「攻め」では世界各国の産業にとって不可欠な、日本独自の技術を拡大していくことも重要です。例えば半導体製造装置のセグメントの中には、日本企業の技術が不可欠な工程があります。こうした技術を戦略的不可欠性として捉えることが重要です。「守り」では過度な外国への依存を避け、「攻め」では海外の日本への依存を管理するという発想です。

軍事、経済両面での安全保障戦略を考えるとき、第1回(「分断する世界で日本に求められる役割とは何か」4月20日配信)で議論した地経学が安全保障領域に重要な役割を果たすようになった時代に対応できる、しっかりとした組織の構築がもとめられると思います。具体的には、今の日本政府のガバナンスは不十分で、経済安全保障の司令塔の役割を果たす組織の構築が必要です。

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