日本が国際的な敗者にならない為に必要なこと 対米、対中を軸にした経済安全保障戦略の要諦

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しかし実際には、言うまでもなく、戦時か平時かを明確に区別することはできません。国際関係においては、常にグレーゾーンのような事態が発生しています。また、平時を自らの意思だけで維持できるわけではありません。外国から攻撃を受けた場合、平時は瞬時にして吹き飛んでしまいます。

つまり、事実誤認による平和主義によって知的怠惰に陥り、明確に区別することのできない平時と戦時を区別し、日本には平時体制しかないという幻想を作ってしまったのが戦後の日本でした。

これに対して、歪んだ平和主義から脱却し、前回(「日本の対米・対中戦略に一体何が求められるか」4月26日配信)、神保さんからご指摘のあったような、米中が経済的な戦時体制ともいえるような状況を適切に認識する。また、平時と戦時が混ざり合ったグレーゾーンの時代に、統治のレベルで迅速かつ適切に対応する。これらのことが、いまの日本に求められていると思います。

国家戦略統合レビュー

そのためには、国家安全保障戦略に加え、神保さんがご指摘されたような国家経済戦略、さらには気候変動問題に対応する戦略や、デジタル戦略、喫緊の課題としては新型コロナウイルスに対応するワクチン獲得戦略など、さまざまな戦略を立てなければなりません。

その場合に、それぞれの戦略を別個に考えるのではなく、どこかの段階でその上位となる国家戦略、すなわち「統合レビュー」のようなものを策定することが必要だと思います。先日、イギリス政府は、そのような「統合レビュー」を発表していますが、その日本版ともいうべきレビューを作成すべきです。

もちろん、簡単なことではないと思いますが、うまく適応できなければ、国際秩序の急激な構造変動の時代に、日本は再び敗者となって国際的な地位を低下させ、蓄積してきた巨大な国益や富を失うことになりかねないということに、危機感を抱くべきです。

地経学ブリーフィング

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

2023年9月18日をもって、東洋経済オンラインにおける地経学ブリーフィングの連載は終了しました。これ以降の連載につきましては、10月3日以降、地経学研究所Webサイトに掲載されますので、そちらをご参照ください。
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