古い企業への外形標準課税を強化すべし 冨山和彦氏が描く「起業環境の変え方」
――起業を増やすためには教育が重要とのことですが、まずは何をすればいいのでしょうか。
中学校で簿記を必須にするというのが1つ。それと偉人について学ぶ際に、企業人を入れることでしょうね。アメリカ人で偉人というと、たとえばカーネギーのような人。日本ではエジソン。日本の偉人でも、起業家ではなくて、そこが野口英世になっちゃう。
――どちらかというとノーベル賞系の人たちを礼賛する。
あんまり渋沢栄一とか、豊田佐吉とかが出てこないですね。岩崎弥太郎も出てこない。非常に単純なことですが、教育に関わっている人に資本家とか経営者のことを嫌っている人が多いから、ということだと思います。教育の問題の根本はそういうところにあるんです。価値観というところで、日本の教育は、金を稼ぐことをよしとはしない。
スポーツの世界で、特殊な才能を持った人が、超大金持ちになるってことは、だいぶ日本人の考えでも許せる感じになってきたように思う。だけど、ビジネスの世界で、飛び抜けた才能を持った人が、人一倍努力をして大金持ちなるってことに関しては、なんとなく許せないところがある。単に運がいいだけだっていうふうに思いたい心情があるんじゃないですか。
かつてはキラ星のごとし
――戦後の日本には多くのスター経営者がいました。
昭和30年代前半ぐらいまでは、個の力が大きかった、明らかに。だからあの時代はスーパースターがいっぱい出現するわけですよ。日本の経済史においても。本田宗一郎、盛田昭夫、中内功、立石一真、出光佐三、西山弥太郎など、キラ星のごとしです。
だけど、昭和30年代後半ぐらいになって、高度成長の波に乗り始めると、その創業世代、スーパースターが作った仕組みの上で、それをいかに上手に、メンテナンスしながら回すかっていう仕組みに変わっちゃった。みんな心を一つにしてやってくためには、社長なんて所詮運のいいやつがなるんだっていう世界観をみんなで共有してたほうが、救いがある。だから社長というものを、順送り人事の中で運の良い人がたまたまやるもの、という価値観で位置づけようとしてきた。
――そうしたほうが、みんな幸せだと思った。
この価値観によって全体のモチベーションを上げるのも合理的だったんだと思いますよ。でも耐用期限が切れたのがバブル崩壊のとき。その時点で、社内平等主義を旨とする、サラリーマン社会主義に別れを告げなきゃいけなかった。しかし、やっぱり30年続いた仕組みっていうのは、内部はもちろん外部にも大きな影響を与えて社会に組み込まれてしまっている。だから、なかなか変えられないまま今に至っていると思いますね。
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