古い企業への外形標準課税を強化すべし 冨山和彦氏が描く「起業環境の変え方」
――現実の世の中とのギャップが拡がってしまった、と。
教育の中で、世の中には競争っていうものがあるんだ、人間は平等かもしれないけど残念ながら均質には生まれていないんだ、個々人によって才能の違いはあるんだ、と教える必要がある。それを前提にしてそれぞれ、自分の比較優位をよく考えて、幸せになる方法を考えてちょうだいねって言わざるを得ない時代に、変わっちゃったわけです。それをきちんと教える必要がある。
――そっちの時代のほうが幸せですよね、本来であれば。
人間の歴史の中でいうと、30年間続いたサラリーマン社会主義が異常なのであって、個々人の個性を許す姿が自然なんですよ。それは日本の長い歴史でもそうです。歌舞伎で描かれている世界なんて、もっと人間は色々で、生き方も色々で、かなりいい加減なところもあります。
――しかし、それでも起業をする人が増えるかどうかはわからない。そもそもアメリカが特殊、という見方もできます。
アメリカのベンチャースピリットはどこから始まるかといえば、そもそも移民から始まっている。要するに自分の国で食い詰めたやつが、一発逆転を狙って海を渡るわけです。世界中から今でも、そういう形で集まってくる。起業をする人が多いのは当然なんですよ、ある意味では。そのアメリカでも一番西の端っこがシリコンバレーであり、移民が成功をする、という物語が今でも続いているんです。
日本はシリコンバレーと補完関係になれる
――ベンチャーキャピタル関係者からは、日本をシリコンバレーのようにしよう、という声も聞かれます。
気持ちはわかるんだけど、日本はファーイーストなんだから、ファーウェストと同じことをやっても仕方がないし、それは無理な話ですよ。
同じことをやるのではなく補完関係になればいい。シリコンバレーと日本は実はまったくもって相互補完になりうるんですよ。日本はシリコンバレーのような破壊的イノベーションをやろうとは思わなくていい。日本は、要するに連続型イノベーションが得意な国。それに対してシリコンバレーは不連続でラディカルなイノベーションが得意なエリア。ITとかICTの世界は、不連続なイノベーションが多く、シリコンバレー単独で物事が進んだ部分が多かった。ただラディカルイノベーションが通用するのは、極めて例外的なケースで、ほとんどイノベーションは不連続と連続の組み合わせでできている。
これからの成長領域と思われるメカトロ的な自動化技術や、エネルギー関連技術、材料技術というものは、不連続だけでは絶対、何もできない世界。だから日本の持っている連続型イノベーション力と、シリコンバレーの不連続イノベーション力がすごく相性がいい領域になってきていると思う。
――国益とか国策という考え方が邪魔をしそうですね。
もうそれはナンセンスですね。例えば日本の産総研(産業技術総合研究所)なり理研(理化学研究所)で生まれた技術、あるいは日本の大手メーカーからスピンオフした技術を供養して、シリコンバレーで起業したっていいんですよ。で、シリコンバレーで起業した日本発の技術に、例えば日本のファンドが出資すればいいんです。それが上手くいったら日本の国富として研究に投入した税金を回収できる。別に起業の場所が東京だろうが、どこだろうが、関係ないんだから。残念ながら東京はパロアルトではない。ある条件下においては、パロアルトで起業したほうが絶対的な優位があるわけです。
これが重要なところで、東京にいる限り、スタンフォードのビジネス区のカフェテリアで、ブレックファーストミーティングをできない。いくらスカイプがあると言っても、その場所にいなければダメですよ。
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