凄すぎて渋沢栄一も戸惑った「西郷隆盛の眼力」 大久保利通と同様に「底知れない男」と実感

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12歳年上の西郷をけしかける渋沢もすごいが、西郷の答えはあくまでも冷静なものだった。

「いや、そりゃいかん。天下の事というものはそう簡単にはゆかん。なかなか難しいものだから、すべて物事は順序を経なければならぬ」

豪放磊落なイメージが強い西郷だが、常に先を見通しながら、言動には慎重を期した。大久保と同様に、西郷もまた底知れない男だ。渋沢はそのことを、ある会議でさらに実感することになる。

時は流れて、倒幕が果たされて、明治時代の幕が開けた。渋沢が大蔵省に勤めていたころのことである。大久保、木戸孝允、そして、西郷を首脳とした評議会が開催された。各省の権限について話が及び、木戸が「三条太政大臣、岩倉右大臣にも出席してもらうようにするか」と言うと、西郷は唐突にこう言った。

「まだ戦争が足りないようにごわすね」

戦争が足りない、とはいったいどういうことだろうか。いきなり意味不明な言葉を浴びせられ、一同は顔を見合わせた。わけのわからない事態を収拾するのは、いつも木戸の役割である。あらためて西郷に説明を重ねた。

「今は、朝廷が持つ権利と政府が持つ権利をどう区別していくか、という議論であり、それには、太政大臣と右大臣が出席したほうがよいのでは、という提案である」

栄一も「西郷は少しウツケ(愚か者)だな」と胸中で思いながら、木戸の説明に補足をし、議論の軌道修正を試みた。

不満をぶつける渋沢をなだめた井上

だが、西郷はまたもこう口にする。

「いや、話の筋はわかってい申すが、そぎゃんこと何の必要なごわすか? まだ戦争な足り申さん。も少し戦争せななり申さん」

これではまるでらちが明かない。2~3時間もそんなやりとりが行われ、あきれて退出する者も出てくる始末。会議は、いったんお開きとなった。

仕方がないので、渋沢は井上馨とともに馬車に乗って、大蔵省に帰った。道中では、行き場のない不満を、井上にぶつけている。

「西郷のあのザマは何ですか」

よほど苛立ったのだろう。渋沢も言葉遣いが荒いが、井上はこんなふうに言って、渋沢をなだめている。

「西郷はまさかあんな馬鹿じゃないよ」

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