パナソニック、新興国技術「逆輸入」に本気の訳 リバースイノベーションで新規事業を創出

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インドでは置き引きや駐輪バイクの盗難が多発しているほか、年間数万人の子どもたちが誘拐被害や失踪事件に遭っている。この切迫したニーズを背景にシーキットは開発され、パナソニックのクロスボーダー準備室が日本への導入を決めた。

クロスボーダー準備室を率いる推進責任者の中村雄志氏は「すでにある技術を活用することは、組織の強みを生かすためには重要だが、パナソニックは大きな組織であるが故にそのポテンシャルを生かし切れていない」と指摘する。

新興国発技術で縦割り組織を打破

パナソニックがクロスボーダー準備室を設立したのは、日本などで成長につながる新規事業の創出に苦戦していることが背景にある。組織は縦割りで硬直化し、社内で成功事例を共有しにくくなっていた。新興国のほうが社会課題が目に見えやすく、新規事業が創出されやすいこともある。

インドでは子どもたちの誘拐事件が多発しており、その対策として見守りタグ「シーキット」が開発された(写真:パナソニック)

シーキットを開発したインドイノベーションセンターは2017年4月の組織設立以降、医療マッチングアプリやオンライン教育ツールなど10件の新規事業を立ち上げた。

「(現地法人の)パナソニックインドはまだ組織が大きくないからこそ、スピード感を持って事業化に取り組めている」(中村氏)。インドではスマート家電などに利用できるIoTプラットフォームも開発し、ソフトウェア分野でのサービスを基軸とした成長が進む。

クロスボーダー準備室は、インド発の電子保証書「e-CareWiz」を日本で展開するためのサービス開発をパートナー企業と進めている。アメリカのシリコンバレーで新規開発した顧客の満足度計測装置「Any Feedback」は、すでに水戸ホーリーホックのスタジアムに導入されている。有償サービスが一部で始まっており、これらの新規事業によって5年間で売上高100億円に育て上げることを目指している。

100億円という目標は、年間売上高約7兆円を誇るパナソニックからすると見劣りがする。だが、中村氏は「インドでの成功例を『リバースイノベーション』という形で、日本などの成熟市場に持ち込み、イノベーションの循環を起こす」と、パナソニック全社で技術革新のスピードを高める考えを示す。

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