パナソニック、新興国技術「逆輸入」に本気の訳 リバースイノベーションで新規事業を創出

拡大
縮小

パナソニックが海外での新たな取り組みや技術を日本などに逆輸入できるようになったのは、海外現地法人に開発の権限などを大幅に委譲したためだ。その結果、技術開発のスピードが日本以上にあがった。

パナソニックのインド法人は本社の経営方針に振り回され、現地に合った戦略を実践できず、サムスン電子など韓国勢に劣後した苦い過去がある。そこで、2010年に「インド大増販プロジェクト」を開始。失地回復を狙って、2013年にはインドを事業拡大を図る重点地域に指定し、商品企画の権限を現地法人に委譲した。その結果、現地に合った独自色のある製品開発力が培われた。

同様に経営や開発を現地化して独自の製品開発が大きく進んでいるのが中国だ。スマート家電の進化が著しい中国で機動的に研究開発や製品展開を行うために2019年4月にCNA社を設立。すでに中国で販売されているパナソニックの家電製品のうち、日本で企画開発された製品の数は1割に満たない。

家電と住宅設備の壁を取り払う

CNA社設立の結果、中国では事業部門間の連携がうまく進むようになった。パナソニック副社長でCNA社社長の本間哲朗氏は「(CNA社では)家電事業と住宅設備事業の間の『壁』を壊し、1つのカンパニーで運営している」と話す。

さらに、「中国は世界で唯一、本当の意味でスマート(デジタル)社会が実装された地域であり、中国で開発した製品を、日本や欧米など成熟市場に持ち込みたい」(本間氏)と意気込む。デジタル技術が進んだ中国で培ったノウハウをパナソニック全社で生かせるかも焦点だ。

2022年4月に予定されているパナソニックの持株会社化では、家電や住宅電気設備事業などで構成される中核事業会社のパナソニックにCNA社も参画する。事業会社内で海外部門で培った経験が各個別事業に活用される機会も増えていく。

海外事業を成長させ、そのスピード感を取り込んだ技術革新を全社に展開できるか。リバースイノベーションの成否がパナソニックの成長のカギを握りそうだ。

劉 彦甫 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT