THE昭和「どぶ板選挙」がいまだ健在な深いワケ 「何年も変わらないこと」の裏に潜む合理性

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また、思い出せる候補者のうち、好意を持っていない候補者に投票することもあまり考えられません。こうして絞られた候補者がすでに1人になっていたら、投票は自動的にその人に向けられるはずです。

もちろん、前日までにホームページなどで候補者の政策をくまなくチェックして、時間をかけて冷静に分析した上で投票先を選ぶ人もいるでしょう。この場合も、そもそも思い出されなければ政策を調べてはもらえませんし、好意を持つ候補者の政策チェックはより優先されるでしょう。

常に支持している政党の候補者を選ぶ、という人も当然存在します。選挙に行く人の中では多数派でしょう。しかし、そうした人たちの投票行動は、候補者の選挙活動にはあまり影響されません。なので、選挙戦を戦う候補者としては、それ以外の人を相手とした活動を重視することになります。そうなると、やはり「覚えてもらう」「好きになってもらう」なのです。

「覚えてもらう」「好きになってもらう」のは、簡単なことではありません。なぜなら、それを実現するには、相手の「記憶を書き換える」必要があるからです。「覚えてもらう」だけで考えても、例えば英単語を1つ覚えるのは骨が折れる作業でしょう。

「記憶を書き換える」ための常套手段は「反復」することです。英単語を覚えるには単語帳を使う人が多いでしょう。繰り返し見て、また声に出して読むことにより、記憶が書き換わって脳が単語を覚えるのです。同じテレビCMが何回も繰り返し流されるのは、まさにこの反復効果を狙ってのことです。

関係者が総出で全国の街角に立ち、商品名を連呼することができれば、それも反復効果を生み出す1つの手かもしれません。しかし、それをするには膨大な時間とお金がかかります。全国ネットで津々浦々まで商品名とパッケージを喧伝できるテレビは、その時間とお金を大きく節約してくれます。

一方、相手とするのが特定の地域の人だけであれば、むしろ街角で名前を連呼したほうが効果的な場合もあるでしょう。これこそまさに、街頭演説や選挙カーが果たしている役割なのです。

「好きになってもらう」ために必要なことは?

英語で否定文を肯定するときは、“Yes”ではなく“No“で答えます。私はあるとき、これを大勢の人の前で間違えて大恥をかいたことがあります。しかし、何回教科書で教わっても頭に定着しなかったこの文法を、それ以来間違ったことはありません。

このように、恥ずかしい、悲しい、嬉しい、面白い、といった「心の動き」があると、人の記憶は書き換わりやすいものです。

「好きになってもらう」という記憶の書き換えは、ただ覚えてもらうよりさらに難しいと言えます。単語帳で反復練習をしていても、英単語に「好意」など覚えませんよね。好意を伴って記憶に焼き付けてもらうには、相手の「心を動かす」必要があるのです。テレビCMが面白かったり、カッコよかったり、感動的だったりするのは、まさにこの効果を狙ってのことです。

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