ケインズ「一般理論」がいま読まれるべき理由 「20世紀最高の経済学書」の何がすごいのか

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要因を押さえたらあとは対策を練ればよいとばかりに、実物経済の需要不足に対しては政府による財政出動が有効であり(民間の需要が小さい場合でも有効需要が減らない)、貨幣経済のマネー不足には金融政策が有効だとして処方箋を書いている(金融政策には利子率とマネー量が関わる、たとえばマネー量不足による金利高を防ぐことができる)。

財政出動を「ケインズ政策」という理由、またケインズが金本位制に反対していた理由もこれでわかるだろう。

「実物経済の本当の市場特性」「貨幣経済の本当の市場特性」を見極めて「有効需要を妥当な水準まで高めれば不況は克服できる」のではないか。そのために手を打つべきではないのか。

「待ってるよりも、足りなければ足せばいい──」

このケインズの主張は意外にシンプルでわかりやすいものではないだろうか。

『一般理論』以降、今に至るまで続く経済論争

ケインズの『一般理論』の登場ですぐさま世界経済が一変したか、というと実はそうでもなく、その影響はじわじわと染み出すように私たち(ととくに経済学者)の常識になっていった、というのが実際のところだろう。

古典派経済学の考えでは、需要が回復するまでは基本的には待つしかないし、むしろ待つべきなのであった。経済が健全に正常化していないから需要は回復していないのであり、不況による調整は健全な経済であり続けるために必要なプロセスだとすら考えられていた(それはもちろん長引かないほうが望ましいのだが)。その視点からは、意図的に需要を作り出すという発想は経済を歪めているように見えてしまう。

とくに自由主義的な利点を強調したフリードリッヒ・ハイエクらの古典派とケインジアン(ケインズ派)の論争は、現代の経済学を強靭にする原動力となったことは間違いない事実だと私は思う。

歴史的に見れば、第2次世界大戦後もアメリカではケインズ経済学をベースとするニューディール政策が幅をきかせ(1970年代まで)、1980年代以降は古典派がいわゆる“主流派”としてアカデミアと政策立案ともに君臨する状況が続いている。

ケインジアンvs古典派の論争はいまもなお形を変えながらも続いており、大まかにいえば、以下のように概観できる。

新古典派          財政政策に消極的(×) 金融政策に消極的(×)
新古典派ニューケインジアン 財政政策に消極的(×) 金融政策に積極的(o)
ケインジアン        財政政策に積極的(o) 金融政策に積極的(o)

景気の状況によりそれぞれ幅はあるものの(たとえば不況時は新古典派ニューケインジアンは財政政策に関してはやや積極的△になる)、おおむねこの立場により論争が続けられていると見なせば、経済議論がわかりやすくなるだろう(またたとえば中央銀行に新古典派ニューケインジアンが多い理由もこれでわかりやすいかもしれない)。

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