ケインズ「一般理論」がいま読まれるべき理由

「20世紀最高の経済学書」の何がすごいのか

大恐慌をきっかけにケインズは古典派経済学を理論的に徹底して批判吟味し、常識を変え、結果として経済学を作り直してしまった。これがいまケインズ経済学として知られるものであり、いわゆる「マクロ経済学」が誕生することとなった。

「『ケインズは死んだ』と語る経済学者もみなケインズの言葉で話している」 (*4)と小室直樹氏は語っていたが、経済をマクロ経済学的に考えることをケインズが可能にした、という点では経済学者はみなケインズの影響下にあるともいえるだろう。

『一般理論』の何がすごいのか

それでは、古典派の常識を覆した『一般理論』の新常識とはいったい何なのだろうか。

もちろん数多くあるのだが、私としてはここでは「有効需要の原理」「賃金の下方硬直性」「流動性選好」の3つを挙げたい(字数等の制限もあるため可能な限りシンプルに説明することをご了解願いたい)。

『一般理論』は文字通り「雇用」「金利」「マネー」の関係の根本を考察するものだ。これはもちろん古典派経済学も考察してきたテーマである。折しも大不況が世界中を席巻するなかでは、「雇用」に関して何とかならないか、ということが大きく問題意識としてあっただろう。

これに関しての古典派経済学の見立ては「賃金が十分下がれば雇用は回復する」であった(セイの法則)。処方箋としては「そのうち何とかなる」ということで、不況は痛みを伴うが経済の正常化にとっての必要な淘汰のプロセスなのだ、というのが当時の経済学の常識であった。

モノの価格が高すぎて売れないならば安くなれば売れる、価格が安すぎて買い手が殺到するならばちょうどいいところまで価格を上げればよい。そのように市場に任せて調整されればよい、というわけで、「雇用」つまり労働力に関しても同様に考えられていた。

しかし、不況が収まらないどころか、そのうちにさらに悪化するような状況が何年も続いてしまう。そこでケインズは実際の市場メカニズムを現実的に分析、考察すると、古典派の理論とは異なる姿をしていることに気づく。

まず、価格が十分安ければモノは必ず売れるという古典派に対して、需要がなければモノは売れない、ということを主張した(有効需要の原理)。

そして、なぜ需要が少なくなるか、ということに関しては、実物経済においては賃金は下がりにくいこと(賃金の下方硬直性)、(金利が決まる)貨幣経済においてはお金をお金として持っておきたいこと(流動性選好、流動性≒現金のこと、経済の不透明性が増せば増すほど強くなる傾向がある)が、(連関性を伴って)需要不足を招く要因になると主張した。

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