ケインズ「一般理論」がいま読まれるべき理由 「20世紀最高の経済学書」の何がすごいのか

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実際にケインズがいなかったら、そして『一般理論』が世に出なかったとしたら、今ごろ私たちはどうなっていたか。考えるだけで背筋が凍りそうになる、そんな経済学者、社会学者も多いのではないか。究極の「経世済民の書」という意味でも間違いなく第一級の経済書といえるだろう。

現代で最高の影響力を持つノーベル賞経済学者、ポール・クルーグマンは『一般理論』について「ぼくが最も高い評価を与えるのは、世界の見方をまるっきり変えてしまい、いったんその理論を知ったらすべてについて違った見方をするようになってしまう理論だ」(*1)と語っている。

そしてケインズについては「社会科学の歴史上で、ケインズの業績に匹敵するものは存在しない」(*2)とまで語っている。

また、アメリカ最高の経済学者としていまなお語られるポール・サムエルソンはケインズと一般理論に関して、「『一般理論』は、南海島民の孤立した種族を最初に襲ってこれをほとんど全滅させた疫病のごとき思いがけない猛威をもって、年齢35歳以下のたいていの経済学者をとらえた。50歳以上の経済学者は、結局のところ、その病気にまったく免疫であった。時が経つにつれ、その中間にある経済学者の大部分も、しばしばそうとは知らずして、あるいはそうとは認めようとせずに、その熱に感染しはじめた」 (*3)と述べている。

まさに掛け値なしといった表現で、経済学のスーパースターたちがケインズのすごさを語っている。ケインズは、経済学界のスーパースターたちが憧れる“超スーパースター”ともいえる存在なのである。

「社会科学のベスト書籍」

とくにクルーグマンの「世界の見方をまるっきり変えてしまい、いったんその理論を知ったらすべてについて違った見方をするようになってしまう理論」ということを、自然科学分野でいえば、生物学におけるダーウィンの『種の起源』、物理学におけるアインシュタインの『相対性理論』がそれに当たるだろうか。

ダーウィンはキリスト教圏の生物史観を根底から変え、アインシュタインの相対性理論はニュートンの物理学を非常に限定的なものにしてしまった。では『一般理論』は何を変えたのだろうか。

それは当時の常識的な経済学である、いま「古典派経済学」として知られる経済理論体系である。アダム・スミスから始まるその体系構築には多くの天才たちが関わり、非常に洗練され、堅牢な威容を誇り、いまなお一線で通用する高い学術水準に到達していた。

そして、ケインズ当人はといえばその「古典派」グループのエリート中のエリートであり、有望な後継者と目されていた。そのような人物が敢然と古典派を過去のものとしようとしたのであり、実際に(控えめにいってもある程度は)してしまったのである。

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