JR東日本の「コロナダメージ」がハンパない理由 出張需要が戻らない前提の態勢転換が不可欠だ

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このうち、JR東は、30%程度を占めると考えられる(注1)。

したがって、JR東日本の売上高中、出張旅費にかかわるものは、1.3兆円の30%である約4000億円と試算できる(注2)。

これは、JR東日本の2019年度の売上高2.1兆円の19.4%だ。

(注1)売上高で、鉄道大手10社に占めるJR東日本の規模は、鉄道会社単体ベースで見て4分の1だ。

(注2)つぎのように考えても、ほぼ同じ結果となる。鉄道会社は大手10社以外にもあるが、規模は小さい。また、出張の多くは新幹線であることを考えると、JR東日本の比重は、4分の1より大きいと考えられる。以上を考慮して、30%とした。

これが半減すると、JR東日本の売上高は8.7%減少する。

この場合には黒字を維持できるが、営業利益はきわめて少なくなる。

仮に出張旅費が71.1%以上削減されると、JR東日本の売上高は13.8%以上減少し、赤字に陥る。

なお、以上で示した数字は、いくつかの仮定に基づくものであり、それらを変えれば結果も変わる。ただし、可能性としては、十分ありうることだ。

そして、重要なのは、これが一時的な現象ではなく、恒常的に継続する変化であることだ。つまり、構造的な赤字が発生する可能性がある。

なお、以上では出張旅費のみを考えたが、これ以外の旅行が減ることも考えられる。

また、コロナ後において在宅勤務が定着し、さらに広がれば、定期券の収入も減少する可能性がある。

JR東日本の2019年度で、新幹線定期外5397億円のうち半分である2700億円が業務出張。在来線定期外7436億円のうち4分の1である1859億円が業務出張、と考えると、合計で4559億円。

事業体制の抜本的見直しが必要

以上で指摘した問題は、JR東日本に限ったものではない。程度の差はあれ、JR各社に共通する問題だ。

また私鉄についても、同様のことが言える。

輸送人キロで見て、鉄道は国内旅客輸送の4分の3を占める重要な産業だ。それがこのような大きな危機に直面している。

間引き運転や終電繰り上げなどの措置では、とても対応できない危機だ。

事業の基幹にかかわる大規模なリストラが必要とされるだろう。リニア中央新幹線のような大規模な投資計画は、基本から見直す必要が生じるかもしれない。

1970年代から80年代前半にかけて、旧国鉄は、巨額の赤字に悩まされ続けた。分割・民営化と並行して、巨額の赤字をJRから切り離すという大手術が行われた。

これから、再び大きな試練の時代がくる。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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