心配の種はありつつも、有紗の婚活はスタートした。
いくつかのお見合いをし、断ったり、断られたり、交際に入っても1、2度食事をすると、交際終了になることが続いていた。そんな中で、メーカーに勤める会社員、幹夫(45歳、仮名)とは、お見合いの後に交際に入り、2カ月で7回のデートを重ねていた。
「とても穏やかで優しい人です。お店に入ったときに、店員さんへの態度も丁寧。私はついつい、この男性は短気かどうか、怒ったらキレないかをチェックしてしまうんですが、そんなところはなさそうです」
幹夫には、好感を抱いているようだった。そんなとき、幹夫の相談室から、“真剣交際”に進む打診が来た。
結婚相談所のお見合いには、仮交際と真剣交際の区分がある。仮交際の時期は、お人柄を見る期間なので、ほかのお見合いをしてもいいし、ほかの人とお付き合いをしてもいい。しかし、真剣交際に入るときには、1人に絞り、ほかにお付き合いしている人たちには、“交際終了”を出す。そして、真剣交際に入った相手と、結婚に向かって気持ちや価値観をすり合わせていく。
幹夫と真剣交際に入れるか、有紗の気持ちを確認する連絡を入れると、戸惑いのLINEが返ってきた。
「一晩考えていいですか? 真剣交際に入ったら、結婚しないといけないんですよね」
有紗の不安を取り除こうと、私はすぐに電話をした。
「真剣交際に入ったからといって、絶対に結婚しないといけないわけではないんですよ。結婚後のお互いの仕事のこと、住む場所のこと、お金のこと、そうした具体的なことを話していって、本当にこの相手と結婚できるかどうかを見ていくんです。一歩ステージを上げることで、より真剣にお相手と向き合う意識を高める。そこで、やっぱりこの相手とは、結婚に対する考え方が違うと思ったら、交際終了にしていいの。価値観や気持ちが合わない相手と無理矢理結婚はできないですからね」
「わかりました。じゃあ、真剣交際に入ります」
その夜は、それで電話を切ったのだが、翌朝、「一晩考えたのですが、やっぱり幹夫さんとは交際終了にしてください」というLINEが来た。
恋愛に一歩踏み込む局面に立たされると、どうしても前に進めない自分がいるようだった。
DVの親元に生まれた子どもは、大きなトラウマを背負う
その後もいくつかのお見合いをし、今度は義之(仮名、47歳)との交際が、順調な様子を見せていた。
昨年12月のクリスマス直前のデートのときには、デパ地下で並んでしか買えないような高級ブランドのチョコレートをクリスマスプレゼントとして渡したようだった。
すると、義之が、こんな提案をしてきた。
「今年はクリスマスイブが木曜でクリスマスは金曜だし、土曜日に1日遅れのクリスマスを僕の家でやりませんか?」
その提案をされたデートの後で、有紗は私に連絡を入れてきて、言った。
「まだ真剣交際にも入っていないのに、自分の家に呼ぶってどういうことなのでしょうか?」
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