中国海警法は日本の海洋秩序をどう変えるのか 法執行と防衛行動の隙間を埋めねばならない

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海洋秩序維持のパラダイムが変わる(写真:Qilai Shen/Bloomberg)
米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。
独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

南沙諸島の実力支配は戦略的国境拡大の典型

今年2月1日に中国で成立・施行した海警法。海警機構の任務や権限を明らかにした法律だ。一方、国際法に反すると指摘を受ける部分や意図的に曖昧性を残した部分もあり、かえって疑念を抱かせることになった。今回は、海警法がわが国の海洋秩序維持に及ぼす影響を中国の南シナ海の島嶼占拠と比較して考察したい。

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政治学者の平松茂雄は中国には地理的国境と戦略的国境の2つの国境があることを紹介している。地理的国境は国際的に認められた領土・領海・領空の限界であるが、戦略的国境は国家の軍事力が実際に支配している国家利益と関係ある地理的空間的な範囲であり、軍事力とその後ろ楯としての総合的国力が備わったとき外に向かって拡大できる。

中国の南沙諸島の実力支配は戦略的国境を拡大した典型と言える。中国は建国当初から南シナ海に所在する島嶼の領有を主張していたが実効支配した島嶼はなく、国際の場やメディアを介して中国が領有する正当性を訴えただけだった。

1974年に南ベトナム(当時)から西沙諸島を奪取すると、中国は南沙諸島の岩礁に次々に主権碑を建て、外洋展開能力を保有するまでに成長した海軍を使って1987年のファイアリークロス礁を皮切りに南沙諸島の6岩礁を1年のうちに占領した(ミスチーフ礁は1995年)。以後、中国は占拠した島嶼の恒久化を図り、1992年には中国領海及び接続水域法(領海法)を制定して南沙諸島の領有を「正当化」した。

領海法は法執行の一部である追跡権の行使を中国軍の艦艇と航空機に委ねた。これは当時の中国の海洋法執行機関が機能ごと5つに分立し、保有船舶の大半は500トン未満の小型船で外洋の追跡には不十分であったため、実質的な法執行は海軍に頼らざるをえなかった理由による。

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