中国海警法は日本の海洋秩序をどう変えるのか

法執行と防衛行動の隙間を埋めねばならない

しかし、この基本方針では海警機構に十分対応できないことは明らかであり、グレーゾーンにおけるわが国の海洋秩序維持を複雑化する可能性が高い。

まず、海警機構の防衛作戦への移行手続きが明らかではない。アメリカ沿岸警備隊の場合、通常は法執行活動を任務としているが、海軍として機能させる際は議会もしくは大統領から指示を出すことを法律で明記している。このままでは、こちらが気づいたとき海警機構はすでに軍事活動に従事していたといった事態も起こりうる。

混乱生む可能性がある武力行使の規定

海警法の武力行使の規定も混乱を生む可能性がある。海警法は、国家主権、主権的権利及び管轄権が外国の機関および個人により不法に侵害されている場合、「武器を含めたすべての必要な措置」をとる権限を付与している。この規定は、現場に無制限の権限を与えることにほかならず、自衛隊法で言えば防衛出動を命ぜられた部隊に認められる武力行使の規定に近い。

また、今年3月初めの第13期全人代の活動報告が「海警法は習近平強軍思想を貫徹し、新時代の国防と軍隊建設の需要に応えるために制定した」と明記したことを考えれば、海警機構は武力行使の規定を満たすように武装を強化していくと考えてよく、グレーゾーンでの対応、とくに武器の使用の判断を複雑化させることは不可避であろう。

それでは海警法と海警機構にはどのように対応したらいいだろうか。

海上自衛隊に領域警備任務を付与して対応させることは可能である。しかし、海上自衛隊が領域警備に適した艦種を欠く現状では、当初から大型重武装の護衛艦を投入することになり、意図せず事態をエスカレートさせるおそれがある。また、日中海軍力バランスが中国優位に傾き、太平洋の米中バランスの逆転も予想される現在の戦略環境では、何にも増してエスカレーション回避を優先させなければならないであろう。

次ページ海上保安庁の法執行活動による一貫対応も一案だが
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