海警法から想定される事態を分析し、現行法で対応可能な事態の上限を見極めつつ、海上保安庁の法執行活動で一貫して対応することも一案である。しかし、事態の烈度が高まるとともに海上保安庁を法執行の枠を超えた軍事行動の領域にまで活動させる懸念があり、いずれ海警機構が第2海軍の体裁を整えていけば法執行のみでは必ず立ち行かなくなる。
また、海上保安庁が法執行を継続中であれば、事態様相にかかわらず政府の武力攻撃事態の認定を難しくし、武力攻撃事態を要件とする日米安保5条の発動の要請を遅らせる可能性も指摘できる。
したがって、海警法の突きつける本質的な問題を解決するためには、わが国はいずれにしても法施行と防衛行動の間にある任務の隙間を埋めなければならない。
重層的な施策が必要だ
まず、自衛権の発動要件を、国際司法裁判所のニカラグア事件の判決に準拠して「武力攻撃(最も重大な形態の武力の行使)」へと見直し、任務の隙間を狭めることの検討が求められる。次に、発足から70年以上にわたって法執行に純化してきた海上保安庁の任務に自衛権に準じた主権擁護を加え、海上保安庁を新たに出現した海洋秩序維持のパラダイムに適応させる必要がある。
国家危急のときには保有するすべての国家機能や能力を統合的に使用することは当然であり、海上保安庁もその例外ではないということである。海上自衛隊には、新たに導入する小型軽武装の哨戒艦に平素から領域警備の任務を付与し、護衛艦部隊とともに海上保安庁をバックアップさせる。また、グレーゾーンにおける情報の不確実性を改善するために、監視衛星や無人機によって常時持続的な広域監視体制を構築することも必要であろう。
今後、海警機構は海洋における現状変更の主体となって活動すると見込まれるが、こうした重層的な施策をとれば、わが国の海洋秩序維持を確実とするばかりか、事態が生起した場合にも能動的な対応ができるのではないだろうか。
(武居智久/元海上幕僚長、元海将)
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