海洋法執行機関は2010年代から大型化と重武装化を進め、2013年には中国海警として再編・統合され、法執行には過大な76ミリ砲を搭載した排水量1万トンを超える巡視船を建造するなど、質量ともに周辺国の海上法執行機関を圧倒する規模へと発展を遂げた。
2018年7月、中国海警は武警海警総隊に改編され、中国中央軍事委員会の指揮下に入り、そして今回の海警法が依拠する法律を与えたことで、海警機構は実力と権限の双方で中国の海洋権益の擁護と法執行を主体的に受け持つ組織となった。
海警法を領海法に重ねると、中国は戦略的国境を拡大する手段として海警機構の活動を「正当化」するために必要な国内法を整備したと見ることができる。
海警法があいまいにした境界
今まで海洋秩序維持は、平時は法執行機関が担い、高烈度事態や戦争には軍事組織が交代して対応すると整理できたが、海警法はこの境界をあいまいにする。海警法の条文を読む限り、中国政府は主権を含む権益擁護と法執行は不可分と考えており、それと異なる任務として国防法や武警法などに基づく防衛作戦を別に規定している。つまり、海警機構は法執行と自衛権に準じた主権擁護を戦争に至らない極めて濃いグレーの事態まで幅広く担当し、必要時には軍事作戦に従事するということである。
わが国の場合、平成27年5月の閣議決定によって、離島等の保全に当たり、領海及び内水で無害通航に該当しない外国軍艦には海上警備行動を発令して自衛隊が対応することを基本方針とした。海上保安庁法25条が海上保安庁の活動を非軍事に限定し軍艦の違法行為には対応ができない理由があったが、それとは別に、事態がエスカレートした場合、軍事作戦はもっぱら軍艦が行うとの仮定があったと思われる。
わが国は自衛権を発動する要件に自ら厳格な制限をかけ「組織的・計画的な武力攻撃」としている。そのため、法執行活動と防衛行動の間には大きな隙間が生じてしまい、隙間を埋める目的で自衛権に準じた領域警備任務を検討したものの結論を得ず、代わって報告や命令の迅速化によって任務の切れ目を局限する措置が基本方針に盛り込まれた。
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