また病院側は「身体拘束を内省や医療従事者に心を開く手段として用いるようなことはしていない」と主張する。だが、2020年11月、裁判所での証人尋問で、この担当医は耳を疑うような発言をしている。
「(身体拘束されている患者は)付きっきりのように、もうほかの患者と比べれば、数倍もの時間を医師も(費やしている)、ですから御本人さんが身体拘束が外れたときにものすごく寂しいと言って、特別な座から降りるんだと、まさにそのような、もう病棟患者さんから見れば、ものすごい羨望を集めるような特別待遇なんですよ」
今も続くフラッシュバック
この言葉を聞いたAさんは憤りを込めて訴える。
「精神科医にはぜひ、いつ解除されるかわからない身体拘束を、一度体験してみてほしい。結果的に1時間で終えたとしても、当事者が訴える、先の見えない底なしの恐怖の一端は感じ取ってもらえると思います。私は結婚して精神的に安定した今でも、急に手首を握られたときなど、身体拘束のフラッシュバックに苦しめられることがあります」
今年2月下旬、厚生労働省は精神病床における身体拘束の実態に関する、初めての調査結果を発表した。2017年夏に当時の塩崎恭久厚労相が近年の身体拘束の急増についての調査と対処に言及してから、すでに3年半が経っていた。
そこでは患者に対する身体拘束のうち約3割で、1週間以上の拘束指示がなされていたことが明らかになった。最大日数は15年半におよぶ5663日と、驚くべき数字となっている。
密室性が高く、情報公開意欲にも乏しい環境の中で、身体拘束のような人権侵害の度合いの強い行動制限が柔軟に行われている日本の精神医療の現場では、患者と医療関係者間の力関係の差は歴然としている。そうした中で昨年、ある西日本の病院で大規模な患者虐待事件が発覚した。
(第12回に続く)
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