統合失調症と診断された彼が服用していた薬
曜日ごとに服用する薬が入れられたピルケースは、「水曜日」の分までが空になっていた――。このピルケースを使っていたのは、プロボクサーの武藤通隆さん(享年28)だ。通隆さんは2016年4月14日の木曜日、自宅のマンションから飛び降りて亡くなった。残されたピルケースは、通隆さんが亡くなる前日まで医師の指示通りにきちんと薬を飲んでいたことを物語っていた。
それまで一度も精神科病院にかかったことがなかった通隆さんは、統合失調症と診断されてわずか2カ月後に亡くなった。精神科病院を退院し自宅で療養中のことだった。
連載第6回「自殺した28歳ボクサーの父が精神病院と闘う訳」(2020年11月20日配信)で報じたとおり、退院前日に身体拘束を受けるほどの興奮状態にあった通隆さんだが、主治医の判断で当初の予定通り退院した。退院後、入院前にはなかった衝動的な言動が多くなり、父親や通隆さんが病院に再入院を求めたが、主治医からは「病院の経営上の理由」として認められなかった。
父親は、退院時に十分な検討を怠り、再入院を認めなかったとして病院を提訴。裁判で開示された病院のカルテによって、通隆さんが入院中に受けていた治療が初めて明らかになった。退院前日、暴れた通隆さんは入院中で最大量の薬が投与されていた。これは父親も知らされていない事実だった。
統合失調症は、自殺に至るリスクが高い病気として知られている。裁判では、退院のタイミングと、再入院をさせてもらえなかった点が争点になっている。しかし、通隆さんの父親は「本当の(自殺の)原因は薬だったのではないか」という疑問を拭えない。
通隆さんは2016年2月、記憶がなくなったり、同じ動作を繰り返したりする異変が起こり、精神科病院を受診した。主治医からは統合失調症の可能性があると告げられ、即日入院となった。診察室で、統合失調症の治療薬である抗精神病薬であるセレネースの筋肉注射を受けた。その日から抗精神病薬のロナセンの服薬も始まった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら