心を病む人を「薬漬け」にする精神医療への懐疑

患者や家族への副作用やリスクの説明は消極的

父親は、通隆さんの様子を正確に医師に伝えるために、通隆さんが入院する直前から症状や服薬量について詳細なメモをとっている。メモによれば、通隆さんは退院後、入院前にはなかった「死にたい」という発言や、ベランダから飛び降りようとするなど、衝動的な行動を取るようになったという。父親は退院後の通隆さんの様子についてこう話す。

「午前中はいつもボーとしていて、意識があるのかないのか、わからないような状態でした。午後になると、足がむずかゆいと言って部屋中を歩き回り、苦しそうに足踏みを繰り返していました」

この足踏みを繰り返す動作は、「アカシジア」と呼ばれる抗精神病薬の副作用の一種だ。じっとしてはいられない焦燥感に襲われ、足踏みをしたり動き回ったりする症状が表れる。厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル」には、アカシジアについて「あまりに苦しくて衝動的に自分を傷つけたり、自殺したいとさえ感じ危険な行為に及ぶ場合さえもあります」と記されている。

「死にたい願望のある患者への投与」への注意書き

薬の添付文書によると、抗精神病薬のロナセンとリスパダールは、重要な使用上の注意として、「自殺念慮(死にたいという願望)のある患者への投与は、症状を悪化される恐れがある」と記されている。

また、入院直後から服用し続けていた睡眠薬のレンドルミンは、依存性があるのに加え、添付文書には副作用として、「不穏や興奮が生じることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、投与を中止する等適切な処置を行うこと」と記されている。

厚生労働省は2017年発行の「医薬品・医療機器等安全性情報」で、レンドルミンを含むベンゾジアゼピン受容体作動薬について、「連用により薬物依存を生じることがあるので、漫然とした継続投与による長期使用を避けること」「異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと」と、注意喚起を行った。

しかし、こうした薬の副作用について父親は病院から説明を受けていなかった。

「統合失調症には自殺のリスクがあることや、処方した薬の副作用を家族である私に教えてくれていていれば、自殺を防げていたのではないでしょうか」。父親は無念でならないという。そしてこう続ける。

「入院中のカルテを見ると薬は処方しているけど、カウンセリングなどの心理社会的療法をした形跡がありません。退院後の診察でも、医師が本人の気持ちは聞こうとはしませんでした。薬を出すことだけが精神科医の治療だとすれば、治療をしていると言えるのでしょうが……」。

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