飛び降り自殺する2カ月前に精神科病院を受診
「暗い顔で私の部屋に入ってきて、少し私のいるところで横になっていました。ちょっと仕事をしている間に、気づかぬうちにいなくなっていました……。それが最後です」
父親は28歳で生涯を閉じた息子の最期のときをこう語った。プロボクサーだった武藤通隆さんは4年前の2016年4月、自宅マンションから飛び降りて亡くなった。看病をしていた父親が、目を離したほんの一瞬のことだった。
亡くなる2カ月前、通隆さんは精神科病院を受診した。そこで診断された病名は「統合失調症」だ。25歳のときプロボクサーの資格を取得した通隆さんは、西日本新人王の決勝に進んだ経験もある。直前までリングの上で戦っていた通隆さん。元気だった息子が短期間で変わり果て、命を絶った理由を追及したい。父親は通院していた病院を提訴。今年8月に行われた裁判で、冒頭のように語った。
2カ月の間に何が起こったのか――。
病院を受診した2016年2月当時、通隆さんはプロボクサーとして活動しながら、母校の私立高校で数学を教えていた。勤務先の同僚で、高校時代の担任でもある教師は、通隆さんについて「学生時代から明るく活発で、人を引きつける性格でした。それに、とても優しいところがありました。クラスに溶け込めない子がいると声をかけていました。学校で働き出してからも変わらず、生徒からも慕われていました」と話す。
2015年12月、格上の元日本ランカーとの試合に挑むも、6ラウンドでTKO負けを喫した。再起をかけて練習に励む通隆さんに異変が起こったのは、翌年2月4日のことだった。夜、練習を終えて帰ると、「俺、記憶なくしてる?」と何度も父親に問いかけた。2月6日には頭痛を訴えて救急車で運ばれたが、脳の検査で異常は見つからなかった。その翌日、同じ動作を繰り返し、体や顔が硬直して動きが制御できないような状態になった。
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