自殺した28歳ボクサーの父が精神病院と闘う訳

早期退院→病状深刻なのに再入院認めなかった

「入院後はじめての面談で、なぜこんなことを言うのか驚きました。病院の経営ではなく、患者を診察したうえでの医学的な判断が第一のはずです」と父親は言う。

通隆さんの部屋には本人が書いた文字が残されていた(記者撮影)

かねて、日本の精神科病床の在院日数は、諸外国に比べて突出して長いとされてきた。そのため、国は早期退院によって高い入院料をつけるスーパー救急病棟や、入院期間が長くなると入院料を下げるしくみで、早期退院を促そうとしてきた。

本連載ではこれまで、「精神病院から出られない医療保護入院の深い闇」など、精神科病院における長期にわたる強制入院の実態を取り上げてきた。その蔓延の背景にあるのが精神保健指定医の絶大な権限だ。

医師のさじ加減で病院の収益を最大化できる

医療保護入院は、本人の入院の同意がなくても、家族などの1人の同意に加え、1人の精神保健指定医の診断があれば、強制入院させられる制度だ。刑期が決まっている刑事事件に対して、医療保護入院には入院期間の定めがない。つまり、入院の判断も退院の判断も、医師の裁量にゆだねられる。

これまで取り上げてきた病床を埋める目的の長期入院も、今回のような高い入院料の新規患者を回転させるための早期退院も、医師のさじ加減で病院の収益を最大化できる点で表裏一体だ。そこでは、患者の意思や症状は軽視されている。

通隆さんは通っていたジムで、プロボクサー第1号だった。プロになるまで育てた、「勝輝ボクシングジム」の大川和彦・会長代行は悔しさをにじませる。

「すでに次の試合も決まっていたのに、いったい何が起こったのか……。一生懸命ストイックに練習する選手で、武藤(通隆さん)に憧れて入ってくる子もいました。病院にとっては数いる患者の1人かもしれないが、私にとってはたった1人の武藤です」

通隆さんの父親は2018年4月、病院を相手に約4000万円の損害賠償を求め提訴した。争点は主治医の退院時の判断が適切だったかと、病院が再入院を認めなかった点だ。

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