自殺した28歳ボクサーの父が精神病院と闘う訳 早期退院→病状深刻なのに再入院認めなかった

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診療報酬制度のルールで、スーパー救急病棟は一度退院すると3カ月以内は再入院できない。しかし、通隆さんと父親は、入院料の高いスーパー救急病棟への再入院を希望していない。一般の精神科病棟へも再入院がかなわなかった理由は何か。

ここにも入院期間を短くするための、診療報酬制度が関係している。一般の精神科病棟の1日当たりの入院料は、基本料とは別に、入院期間に応じて加算がなされる。しかし、この加算は入院期間が長くなるにつれて減るしくみになっている。

1~14日までは465点(4650円)、15~30日までは250点(2500円)と段階的に下がる。91~180日以内では、わずか10点(100円)しか得られない。診療報酬制度に詳しい高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科の木村憲洋准教授はこう話す。

「入院料の高い新規患者として扱えるかは、3カ月のルールがある。3カ月以内に同じ病名で再入院すると、入院日はリセットされず、継続して入院している患者と同じになるため入院料は低くなる。一方、退院から3カ月経過するか、病気が急に悪化した(急性増悪)とみなせば同じ病名でも新規患者として扱えるため、入院初日と同じ高い点数がつく」

スーパー救急病棟を退院し、一般の精神科病棟に再入院する場合も「3カ月のルール」は同じだ。例えば、14日間で退院した患者が3カ月以内に再び入院すると、入院15日目と同じ扱いの入院料になる。つまり、3カ月経過してから入院したほうが、病院経営上のメリットは大きい。

再入院はかなわず、薬を増やされるだけ

主治医は再入院を認めず、薬を増やすだけだった。父親はこの医師には入院も治療も望めないと絶望し、再び入院が可能になる3カ月後までは自宅でみるしかないと思った。父親は心配で目が離せず、在宅勤務に切り替えた。当時交際していた女性や友人たちも毎日のように寄り添っていた。

ところが、退院から1カ月半が過ぎた4月14日のこと。父親が目を離した一瞬の隙に、通隆さんは自宅マンションから飛び降りた。28歳の誕生日を迎えた直後だった。通隆さんの部屋には、自分で書いた紙が当時のまま張られている。

「全て現実で起きてること 死んだら死ぬぞ!!」

通隆さんは自殺の衝動に苦しみ、それを押し殺そうと戦っていた。

父親は、入院直前から通隆さんの様子を記録したメモを残している。入院してからはじめての主治医と面談したときのメモには、主治医から言われた言葉が記されている。「上層部の方針として再入院はさせない」「3カ月は再入院できない」。

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