本連載で何度も取り上げたとおり、医療保護入院は精神科特有の入院制度で、本人が拒絶しても、家族など1人の同意に加え、1人の精神保健指定医(経験年数やレポート提出など要件を満たした精神科医)の診断があれば強制入院させられる。Aさんの両親は入院時に主治医から求められて、あらかじめ同意をさせられていた。
「『もういいかな? じゃあやっておいて』と主治医が手慣れた様子で言い放つと、病室に入ってきた4人の看護師が手足を押さえつけ、手際よく柔道着の帯のような平たい頑丈なひもを私の体に巻き付け、ベッドの柵の下側に結んでいきました」
両手、両足、肩の身体拘束が終わると、次に鼻の穴から、経鼻胃管のチューブが挿管された。チューブは胃カメラのときに入れるものよりも太くて固い。それが常時入れられたままになる。
「経鼻胃管をされると、24時間ずっと鼻とのどに食べ物や飲み物が詰まっているような、何ともいえない違和感があります。例えるなら、柱がのどに突き刺さっているような感覚です。とにかく、苦くて痛い、そして苦しくかゆいとしか言いようがありません」
意識が鮮明ゆえの「極限の地獄」
排尿は、尿道バルーンが自動的に尿を吸い出す形で行われた。拘束が外れた後も筋力が回復して自力でトイレに行けるようになるまで、2カ月半ほど付け続けた。
「経鼻胃管の痛みと違和感が強すぎて、尿道バルーンの痛みや違和感はそこまで記憶していません。ただ、恥ずかしさはとても大きかったです」
より恥ずかしかったのは排便だ。おむつを付けさせられたうえ、排便時にはナースコールをして看護師におむつを脱がされ、お尻とベッドの間にちり取りの形をした「おまる」を入れられ、そこにしなければならなかった。
「排便時もおなかに1枚タオルをかけてくれたぐらいしか、プライバシーへの配慮はありませんでした。3日に1回お通じがなければ浣腸され、無理やり排便させられました。恥ずかしいし情けないし、思い出したくない経験です」
当然のことながら、摂食障害で入院したAさんは意識も鮮明で、はっきりと意思の疎通もでき、もちろん幻覚を見たり幻聴を聞いたりすることもなかった。「意識が完全にクリアな中でされる身体拘束や経鼻胃管、尿道バルーンの経験は、まさに『極限の地獄』でした」。
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