アジア系への「ヘイト犯罪」米国で野放しな理由

「差別の立証」は黒人やユダヤ系より難しい

2月に中国系の男性が襲われたニューヨークのチャイナタウン(写真:Dakota Santiago/The New York Times)

2月の寒い夜、マンハッタンのチャイナタウン近くで中国系の男性が歩いて帰宅する途中、背後から駆け寄ってきた何者かにナイフで背中を刺された。

この刺傷事件は多くのアジア系アメリカ人にとっておそろしいものではあったが、驚くようなものではなかった。コロナ禍の中で、アジア系に対する暴力的な人種差別は増えている。

ところが捜査関係者によると、加害者であるイエメン出身の23歳男性は、被害者を襲う前に一言も発しなかったという。人種差別的な動機を示す証拠が十分でないと検察が判断したのは、このためだ。加害者は殺人未遂で起訴されたが、ヘイトクライム(憎悪犯罪)の罪には問われなかった。

この発表にニューヨーク市のアジア系アメリカ人指導者は激怒。マンハッタン地区検察局の外で抗議活動を繰り広げ、憎悪犯罪での起訴を要求した。人種差別的な暴行と見なされてしかるべきものが当局から看過され続けている状況に、彼らはうんざりしている。

摘発されない憎悪犯罪

「(憎悪犯罪なら憎悪犯罪と)そのものずばりの言葉を使おうじゃないか」。地域社会活動家のドン・リー氏は集会でそう述べた。「これらは無差別の暴行事件なんかじゃない。われわれは(アジア系を狙った)憎悪犯罪が実際に起こっていることを認めてほしいと言っているんだ」

アジア系に対する暴力事件の報告は増え続けており、新しく事件が起こるたびにアジア系は身の危険を一段と強く感じるようになっている。しかし事件の多くは逮捕につながらず、憎悪犯罪として起訴されることもない。そのため、アジア系がどの程度標的にされているかをデータで把握するのも難しい状況となっている。集会に映し出されていたのは、このような問題意識だ。

アジア系のいら立ちは3月16日夜、白人男性のロバート・アーロン・ロング容疑者がアトランタ地区のマッサージ店を銃撃し、アジア系女性6人を含む8人が死亡した事件を受けて、全国に広がった。

捜査関係者は、動機を断定するのは時期尚早としている。ロング容疑者は取り調べに対し、人種的な偏見を持ったことはなく、「性依存症」に復讐するのが目的だったと話しているという。

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