アジア系への「ヘイト犯罪」米国で野放しな理由 「差別の立証」は黒人やユダヤ系より難しい

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アトランタの銃撃事件と、最近起こった別の襲撃事件が浮き彫りにしているのは、人種差別的な動機を証明することの難しさだ。被害者がたまたまアジア系だった場合もあれば、反対に憎悪犯罪の法的証拠とならない巧妙なやり方を使いながら、意図的にアジア系を標的にしている可能性もある。

アジア系アメリカ人の間では、アジア系、中でも女性を「弱くて従順」と見なす文化的なステレオタイプ(固定的なイメージ)がこうした事件につながっているのではないか、とする見方も根強い。

明らかに人種差別的な動機があったとみられるほかの事件では、容疑者の逮捕にすら至っていないものもある。

法律がアジア系への差別の実態に沿っていない

アジア系への差別を法的に証明する難しさが問題となる中で、アジア系コミュニティーは法律がアジア系に対する人種差別の実態に沿ったものになっていないという現実に頭を悩ませている。

ニューヨーク州で上述のような暴力事件を憎悪犯罪として起訴する場合、検察は犯行の理由が人種差別だったことを示さなくてはならない。

しかし専門家は、アジア系が被害者の場合、人種差別的な動機の証明は一段とハードルが高くなると指摘する。アジア系には、黒人リンチを連想させる首つり用ロープやナチスのかぎ十字に相当する、よく知られた差別のシンボルが存在しないためだ。アジア系は小さな店の店主として強盗被害に遭うことが多かったというアメリカの歴史的な事情も、人種差別の立証を難しくしている。

「黒人、ユダヤ人、ゲイに対する憎悪犯罪にははっきりとした典型がある。これらの事件は(アジア系への憎悪犯罪に比べ)もっとわかりやすいことが多い」とピッツバーグ大学法学部のルーイン・ワン教授は話す。

暴力を抑える最善策をめぐってアジア系アメリカ人の見方は激しく割れている。背景にあるのは、多数の民族を抱えるアジア系内部での考え方の違いや世代間の隔たりだ。国勢調査によると、ニューヨーク市には市の人口の14%に相当する120万人のアジア系が住んでいる。

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