コロナ禍の日本に見えた国や人の大いなる難題 船橋洋一さんが語る「日本の勝ちすじ」

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船橋:薬害エイズ問題のときは、厚労省の担当課長が有罪になり、上司の局長は不起訴になりました。課長は医系技官で、上司の局長は事務官だった。事務官には専門性がないので、専門的な判断を下すことはできないというので不起訴になったという背景があるようです。アメリカのFDAのような個々の検査官が法を順守してもなお結果的に過失が生じた場合の免責条項が日本にはありません。

これ以後、厚労省のリスク回避の傾向が一段と進んだとの証言を今回、伺いました。このこともまた、日本のワクチン開発・生産体制の遅れの背景にあると思います。検証で重要なのは、直接の因果関係の解明もさることながら、構造的、歴史的な遺制(レガシー)や組織の人事制度、インセンティブ・システム、ガバナンスなどの中因、遠因の分析です。

須賀:なるほど。

船橋:なので、「コロナ臨調」では、そういったことを前提としたうえで、調査をする際には、政治指導者を除き、担当者・当事者の場合、名前を出さずに内容だけを伺うというディープ・バックグラウンド方式でヒアリングを行いました。

このような検証は本来であれば、国会がやらなくてはならないことですが、日本の国会は、予算委員会ひとつ取ってみても「対決国会」になりがちで、なかなか難しい。今回も感じたことですが、政府の担当者の中にも、国民に本当のことをもっと知ってもらいたいという方もいらっしゃいました。民間の独立系シンクタンクの立場とこちらの事実・証拠ベースの調査・検証の姿勢を理解していただき、お話しいただけた。手ごたえがありました。ヒアリングに応じてくださった方々に感謝しています。

おそらく、最後は、お互いの信頼関係をどう構築するのかということになると思うのですが、そういったことを含めて、どのように政府に対して検証を求めるかということが、実はとても重要であり、大変なことになるんです。それは、検証をする際に知っておかなくてはならないことだと思います。

学びの意識の低さが命取りに

須賀:少し話は移りますが、コロナ下に社会がガラリと変わりつつある中で、グローバルでは、企業や組織のCEOやトップ層の方々が、これからの社会の動向を理解するために、とても熱心に勉強されていらっしゃったことが非常に印象的だったんです。世界経済フォーラムが主催するウェビナーにも、それぞれの組織のトップ級の方々が参加されて、自分は世の中をこう見ているとか、こういったところにリスクがあると思っているというようなことを積極的に意見交換されていました。

ただ、そういった場にも、日本の方はほとんどいらっしゃらない。日本人の学び続けようとする意志の弱さを強く感じるんです。だからこそ、グローバルでの潮流がどのように変わっているのかということにも、1拍、2拍遅れて反応されてから動いている。こういったことにはどのような課題意識を感じていらっしゃいますか?

船橋:冷戦後、日本が長い「失われた時代」に突入し、日本の経済発展モデルが減価する中で、日本は「反面教師」としての役割を担うことになってしまった。人口にしてもデフレにしてもイノベーション・ジレンマにしても、その後の先進民主主義国の「日本化」の負のお手本となってしまったんです。

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