病院を襲った津波、遺された者たちの深い葛藤 静岡のJCHO病院はなぜ浸水地域に移転するのか

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東日本大震災で起きた津波は、なぜあれほど高い水位に達したのか。実はそのメカニズムはまだ解明されていない。これまで、エネルギーをためないとされてきたプレートの沈み込む浅い部分が動いたのはなぜか。第1波で海底が削られて第2波が高くなった可能性はないのか。岩手県には別の震源があった可能性もある。つまり、今後も「想定外」の高い津波に襲われることは十分に考えられるのだ。

病院の移転先となるJR清水駅の周辺には、あちこちに「津波」への注意喚起を促す看板が立っている。なぜ内陸部にあった病院がわざわざ危険な浸水地域に移転するのだろう。

JCHOの担当者によると、静岡鉄道の桜橋駅から徒歩5分ほどのところにある桜ヶ丘病院は、2次救急を担う199床(実際に使用されているのは約150床)の総合病院だ。使い勝手が悪いうえに老朽化で耐震補強の工事が必要になった。だが、補修をするには3年ほどの工期と莫大な予算が必要だという。であれば、新しいところへ移転したほうが効率的だ。

JR清水駅周辺には、津波への警戒を呼びかける看板があちこちに(筆者撮影)

使命感が強い彼らを救う唯一の方法

かつて社会保険病院だった桜ヶ丘病院は、2006年に整理統合で撤退する計画があったものを、市民の署名運動などで存続が決まったという。町の中核病院でもあり、その移転先を検討していた静岡市が、清水駅東口公園を最有力な候補地として提示した。すでに昨年12月に市とJCHOの間で基本協定書を交わし、設計に携わる業者の入札が今年3月末に始まる。2023年に開業予定だ。

新しい病院は7階建て、高さ21メートルもある大きなものが予定されている。1階は柱だけ残して津波が抜けるピロティ方式にする計画で、入院患者の病棟は12メートルより上の5~7階になる。

確かに、駅のすぐ前に病院があれば高齢者にとっては便利だし、収益も見込めるという事情はわからないではない。だが、海はすぐ間近。想定外の津波が襲ってきたとき、そこで働く職員は逃げられない患者をどうするのか、ぎりぎりの選択を迫られることを意味する。

使命感が強い彼らを救う唯一の方法は、海辺に病院をつくらないこと。これが東日本大震災最大の悲劇となった雄勝病院の教訓だ。逃げても地獄なら、とどまっても地獄。そんな究極の選択を、病院で働く人たちに強いることだけはしてほしくはない。

辰濃 哲郎 ノンフィクション作家

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たつの てつろう / Tetsuro Tatsuno

1957年生まれ。慶応義塾大学法学部を卒業後、朝日新聞社に入社。支局、大阪社会部を経て、東京社会部で事件担当や遊軍キャップ、デスクなどを務める。2004年退社。主な著書は『ドキュメント マイナーの誇り―上田・慶応の高校野球革命』 『海の見える病院 語れなかった「雄勝」の真実』、共著は 『歪んだ権威 密着ルポ日本医師会~積怨と権力闘争の舞台裏』 『ドキュメント・東日本大震災 「脇役」たちがつないだ震災医療』。佼成学園高校で甲子園に出場。慶応大学では投手だった。関連して著書に『ドキュメント マイナーの誇り・上田慶応の高校野球革命』がある。

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