「鬼滅の刃」大ヒット支えた日本人の新しい信仰 「好きなことして生きていく」の次に来る価値観

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日本人は無宗教だと言われます。NHKが2018年に行った調査によると、実に62%の人が「信仰する宗教がない」と答えています。

世界最大の統計データプラットフォーム、statistaの調べによると、アメリカでは信仰する宗教がないと答えた人の割合が2020年現在で約20%です。ソースが違うので単純比較はできませんが、信仰する宗教がないという人の割合は、実際に日本ではかなり高いことがわかります。

しかし、日本人は本当に何も信仰していないのでしょうか? 日本人が書いた世界的ベストセラーの元祖とも言える、新渡戸稲造の『武士道』には、本来文字どおり「武士の道徳」だった武士道が、階級を超えて広く日本人に尊ばれる宗教のようなものになっていった過程が記されています。

実際に新渡戸の説く武士道の教えをひもといてみると、今でもそれが私たちの社会に深く根ざしていることが見てとれます。例えば武士道の「7つの徳」の1つである「礼」は、「目上の人」という概念や礼儀作法の大切さを教えます。

令和に生きる私たちも、年長者には敬語を使ったり、食事の席では上座を譲ったりするでしょう。

また、7つの徳の中で最も上位に位置するとされる「忠」は、主君や国(藩)に対する忠義の大切さを説きます。この武士道最大の美徳は、「社畜」と揶揄される日本人の組織への忠誠心に、今でも垣間見ることができます。

「やるべき」「やるべからず」を自分だけで決める恐怖

こうした礼儀作法や暗黙のルールは時に煩わしくもありますが、一方でそうしたものがまったくない世界を想像してみてください。すべての「やるべき」「やるべからず」を自分自身で考え、判断し、その責任をとることを求められる世界です。

ドイツの心理学者エーリッヒ・フロムは、そうした状況に恐怖し、そこから逃れようとする人間の心理を、「自由からの逃走」という言葉で表現しました。この「自由からの逃走」は、時にヒトラーのような独裁者の台頭を招いてしまいます。

実はこれこそが、まさに今世界中で起こっていることなのではないでしょうか。

アメリカにおける無宗教の割合は、日本よりずっと低いとお話ししました。しかし、近年急速に高まっており、直近の10年だけで6ポイントも上昇しています。それと呼応するように、事実やデータ、論理に基づかず、断定口調で強論を述べる政治家、陰謀論、フェイクニュースが跋扈するようになりました。その背景には、「やるべき」「やるべからず」を決める心の拠りどころがほしいという悲痛な叫びが潜んでいるのではないでしょうか。

日本はどうでしょう。もとより無宗教だった日本において、同じ文脈で急速に力を失っているのは、社会の奥に潜んでいた武士道の価値観です。礼儀作法がナンセンスとされ、組織への忠義が「社畜」と罵られる。そんな、これまでの価値観が崩れ落ちつつある世界において、その代わりに私たちが拠りどころとするべきものはいったい何なのでしょうか。

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