費用不足問題に対して、総戸数分の世帯の意見をまとめてお金の話を工面するのは多大な労力が必要になるので、これを避ける方法を私は考えていた。それは大規模修繕前に引っ越してしまうことだった。
私の初の著書「マンションは10年で買い替えなさい」では、10年で住み替える理由の1つに大規模修繕を回避すると書いている。一般的に、築12年目頃に最初の大規模修繕が実施されるが、新築から10年間住むのであれば、その前に転居できる。こう書いたのも、新たな費用負担を免れる有効な手段を知らなかったからだ。
大規模修繕「前後」で売買価格は変化しない
私は以前から大規模修繕って不思議だなと思っていた。なぜなら、大規模修繕は多額の費用が掛かるが、これをやったからと言って資産価値が上がることはないからだ。大規模修繕前後で売買価格が変化することがないということだ。
ほとんど物件が12年や15年で大きな修繕をしているなら、その時点で価格が上がる傾向が見えるはずだが、これまで一度もそんな事例を見たことがない。そもそも大規模修繕は共用部の修繕であって、売買される専有部の資産価値には反映されない。
例えば、集合住宅ではなく、一戸建てであれば資産価値に影響しない投資をするかと言うとはなはだ疑問になるし、外見は壊れてないなら、室内の専有部の居住性を上げることにお金をかけるだろう。なぜ集合住宅だけそれをやれと言うのだろう。
言うまでもなく、周辺の通行人を巻き込むことがあるので、道路を管轄する地方自治体と情報連携して危険を未然に防ぐ必要はある。
実際、神奈川県逗子市で2020年2月、市道に面するマンション敷地内の斜面が崩落し、歩いていた女子高校生が死亡する事故があった。女子高校生の遺族が、このマンションの区分所有者と管理会社、管理人に対し、安全対策を怠っていたとして、損害賠償を求めただけでなく、マンション管理会社の代表を業務上過失致死の疑いで、マンションの区分所有者を過失致死の疑いで神奈川県に刑事告訴している。
また、マンションに限った話ではないが、外壁タイルなど部材の落下による事故による被害者は、2019年度10人(うち死亡1人)となっており(国土交通省『建築物事故の概要』)、定期的な安全性の検査は欠かせない。
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