世界の舞台で自分の考えを話せるかどうか 三井物産・槍田会長×ライフネット生命・出口会長(2)
出口:本当に国際機関でもっと頑張る人間をつくりたいなら、そこは国や社会の政策として、博士課程、修士課程に進む人を優遇するなどのシステムをつくるべきだと思います。彼我の格差は個人の能力の差ではなく、制度の差にあるということをわきまえて議論したほうがいいでしょう。
槍田:私もロンドンに駐在していたとき、似たような印象を持ちました。取引先のオフィスに行くと、幹部社員とそうでない人が厳然と区別されている。たとえば経営陣のダイニングルームと一般社員のダイニングルームが分かれていて、絶対に行き来しません。僕なんかは会社の一般食堂で平気で食事をしていましたが、いわゆるクラス社会の徹底ぶりには驚きました。
ああいうアッパークラスに属する人たちの持っておられる教養というのは、並大抵ではありませんね。彼らは名家の出身者が多いので、食うために仕事をしているわけではない。仕事はしているけれど、その仕事がしたいからしているだけ。そういう生活レベルの人ですから、育ってくる過程でいろいろな教養を身に付けている。とても比べものになりません。
出口:そういう社会的背景を踏まえないといけませんね。一度、面白い体験をしたことがあります。僕は絵が大好きなので、ロンドンに駐在していた頃、時間があればいつも入場無料のナショナル・ギャラリーに入り浸っていたんですよ。そうしたらあるとき館員に声をかけられた。
「お前はしょっちゅう顔を見るが、何をしてるんや」と言うので、「いや、ロンドンに駐在しているんだけれど、単身赴任で時間もあるし、絵が好きだからいつも来ているんだ」「本当に絵が好きなのか」「大好きだ」「じゃあうちの会長とランチを食わないか」と誘ってくれたんですよ。それで会長と名刺交換をしてびっくりしました。ナショナル・ギャラリーの会長は、イギリス王室と深い関係にあった名門銀行ベアリング・ブラザーズの、ベアリング家の当主だったのですよ。「えっ、あのベアリングさんですか」と驚きました。今はもうベアリング銀行はなくなってしまいましたが、そういうバックグラウンドがありますから、教養のレベルが違いますよね。
槍田:ビジネスパーソンでありながら、美術館の館長になれるほどの教養レベルなんですね。
深掘りして自分の言葉で語る
――世界に出れば、特に商社マンは世界最先端のエリートと侃々諤々(かんかんがくがく)やらないといけない。彼らと対等に渡り合える人材を育てるためには、これまでとは違う教育や育て方や働き方が必要であると考えますか。
槍田:そうですね。僕は西洋文化に関して同じようなレベルにならなければ対峙できないかというと、そんなことはないと思います。その人はその人なりに鍛え上がっていれば、それは交渉の過程で必ず伝わるし、こちらにも伝わってくる。交渉事というのは、人と人との真剣勝負みたいなところがありますからね。ひと太刀交えただけで、相手の力量はたちどころにわかってしまう。そのとき「これは相手にとって不足はない」と思われるのか「たいしたやつじゃないな」と思われてしまうのか。
極論すれば、幕末の遣欧使節団のように、ちょんまげに二本差しだって、少し話をすれば「こいつはすごい」とわかるものです。たぶん遣欧使節団に選ばれるような人は、剣術のみならず古典や漢籍の教養もあって、内部も鍛え上がっているでしょうから、欧米の人も「妙な格好をしているが、これはたいした人間だ」とわかったはずですよ。ですから必ずしも同じバックグラウンドを持つ必要はないと思いますね。