「30泊36万円」超高級ホテル暮らしは定着するか 都内の名門老舗ホテルが長期滞在プランで勝負

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一方、「われわれは徹底的にホテルにこだわる」というのは、首相官邸そばに立つ名門ホテル「ザ・キャピトルホテル東急」だ。北大路魯山人ゆかりの星岡茶寮跡地に建つ同ホテルは政治家とのゆかりも深く、レストラン「ORIGAMI」は首相動静に毎日のように登場することで知られている。

国会議事堂を見下ろすキャピトル東急のスイートルーム(記者撮影)

同ホテルは3年前に東急ホテルズから同ホテル総支配人に就任した末吉孝弘氏のもと、海外のラグジュアリー層を取り込むべく、フォーブズ・トラベルガイドの星獲得を目指した。

末吉氏は「ホテル業の真価は床面積を効率よく売ることだけではない。外資系に負けない価格帯できちんとしたサービスをすれば満足してもらえる。自信を持って行こうということで、権威あるホテルガイドの星を取るというわかりやすい目標を掲げた」と語る。

悲願のホテル部門「5つ星」を取得

これまで接客向上やスイートルームの改装、客室家具の入れ替えなどを行ってきた。冷蔵庫に置く水の品質やペットボトルのデザインにもこだわり、宿泊客が清掃を依頼する際ドアノブにかける札には間伐材を導入した。レストランのストローも1本50円の木製のものに変えた。こうした積み重ねで2017年には3万円程度だった平均客室単価は5万円程度に上昇した。

キャピトル東急はドアノブにかける札のつくりにもこだわった(記者撮影)

同ガイドの5つ星ホテルは、マンダリンオリエンタル東京やパレスホテル東京など国内に10あるが、900項目にのぼる覆面調査を経た2020年9月、悲願のフォーブズ・トラベルガイド「ホテル部門」の5つ星(ファイブスター)を取得した。

ただ、いまはコロナ禍の真っただ中。キャピトル東急の宿泊客の75%を占める外国人客が一気に蒸発し、GoTo中断もあって足元の稼働率は10%台。閑古鳥の鳴く惨状は都内の他のホテルとまったく変わらない。それでもロックバンド、クイーンの名曲「The show must go on」(ショーを止めるわけにはいかない)の言葉をバックヤードに掲げ、従業員を鼓舞しながら売店とバー以外は開業させているという。

「コロナ禍でもホテルを愛用してくれるお客さんがいる。そうしたお客さんにコロナを理由にサービスを断ったり、レストランを閉めたりすることはできない。休業して助成金や協力金をもらうほうが効率的だが、けっして閉めてはいけないホテルがある」(末吉氏)

キャピトル東急は2月末、ビジネスパースン向けに、スイートルーム(104.7平方メートル)の長期滞在プランを打ち出した。ジムやプールも無料で使えるが、料金は30泊210万円など。愛犬を連れて宿泊ができる部屋も用意し、多様な国内富裕層の需要に応える取り組みも始めたところだ。

かつてない不況に見舞われたホテル業界。「正解」の見えない暗中模索が続くが、その歩みを止めないホテルが結局、生き残ることになる。

森 創一郎 東洋経済 記者

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もり そういちろう / Soichiro Mori

1972年東京生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科修了。出版社、雑誌社、フリー記者を経て2006年から北海道放送記者。2020年7月から東洋経済記者。

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